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藤木はすぐ電話に出た。
今日は午後からの出勤だから時間に余裕があると言う。
俺は眠いので手短かに用件を告げたいところだが、さすがに、この用件は手短かには伝えられない。
📞
実はさ。
俺、今、エブリスタ ってネット小説サイトで遊んでるんだけど、そこでたまたま仲良くなったBlancちゃんっていう大学生がいてね。
あー、Blancちゃんは日本人だよ。
ペンネームさ。
え?どこの大学かは知らない。
いいんだよ。どこの大学だって。社会人でもどうでもいいんだ。
でさ。
彼女の誕生日プレゼントに、いっしょに登山したいって話から、俺は彼女に会う前に、少しでも若返りたいと思った訳。
イヤイヤ、それがさ〜、ウソみたいな話なんだけど、ふざけてテキトーな呪文を唱えてみたら何と、本当に若返ったんだ。まるで変身だよ、変身。
変態?!言うと思ったよ。それはおまえだろ!
信じられない気持ちは当然だよ。実際に若返ってしまった俺だって未だに信じられないくらいさ。しかしまあ、とにかく本当に若返ったんだから話の続きを聞いてくれよ。
でさ。
大学生にしか見えない若い俺が、偶然なんだけど東大の西園寺って名誉教授が困っているところを、ちょっと助けたんだ。
うん、君の演奏、褒めてたよ。知り合いなんだってな。そこでお願いがあるんだ。
つまり、俺はどこの大学生かと聞かれて、東京芸大のピアノ科4年で藤木先生にお世話になってると言っておいたんだ。
だから仕方なかったんだって。おまえが困った時に、俺が何回助けたと思うんだ。まさか忘れたとは言わせないぞ。一回くらい俺を助けてくれてもいいだろう?
まあさ。
西園寺先生から連絡が来たら、テキトーに話を合わせてくれりゃいいんだ。俺が芸大4年のピアノ科の学生だと。えっ、今でもピアノ弾けるかって?まあ、そこそこ弾いてるから何かしらは弾けるよ。
はあ?!
そこまでする必要あるか?つまり西園寺先生に何曲か演奏して聞かせろってことだろ?わかったよ。弾いてやろうじゃないか。
えっ?!
いや俺はリストは好きじゃない。ショパンじゃダメかよ?えっ!ダメ?
わかった。
とりあえず何か練習しておく。まあ、急に今週中とか言われたらリクエストにはお応えできないぜ。なんでって。忙しいんだよ。昨日から寝てないんだ。数時間寝たら、すぐ仕事さ。
あ、そのBlancちゃんも連れて行くからさ。
話、合わせろよ。おまえの演技力の高さは評価するよ。最近はどうなの?まだ恋人7人とかキープしてるのか?ええーっ?そいつはスゲ〜!よく体持つな。
マジかあ。
でもBlancちゃんには手を出すなよ。くそっ・・・心配だなぁ。Blancちゃん、めちゃ可愛いからな。いや、俺は何もしてない。ってか、何もしないよ、最後の最後まで。どうしてって?だって、若い俺は本当の俺じゃないしさ。
年の差なんて関係ないって?それは、おまえみたいな遊び人の考えだろう?俺は気にするんだよ。第一、幸せにしてやれないしな。
違うよ。
俺はとにかく忙しいんだ。相手が誰であろうが迷惑をかけるだけさ。いやいや、迷惑かけるのも愛のうちとか、さすがプレイボーイの言うことは非常識だな。とにかく俺には俺の良識ってものがあるんだよ。
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