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〜東京都足立区〜
広大な敷地に、見事な日本庭園。
豪勢な作りの屋敷に、入り組んだ建屋が並ぶ。
関東裏社会最大の組織、黒龍会本部である。
庭園の中を通るガラス張りの渡り廊下。
邸宅から繋がる建屋に、会議室があった。
「王船長。今回の件はどういうことだ?」
重く響く含みを帯びた声。
指にはめた太い指輪を磨きながら話す。
黒龍会会長、山崎龍造。
極悪非道、力で全てをねじ伏せてきた漢。
「まさか、検察が入るとは…しかし、積荷は大丈夫です。遅れて申し訳ありませんが、必ず届きます」
「遅れは許されんのだよ、バカ者が❗️」
睨みを効かした怒声。
殺される…と感じた時。
「お父様、また大声出して、全く」
「おお、無事に帰ったか蘭」
山崎龍造の一人娘、山崎蘭。
類い稀な知能と、裏社会で生きる能力を持った彼女は、15才という若さで、福建省泉州にある中国支部を任されていた。
「もういい、出ていけ」
正直助かったと思った王。
慌てて、逃げる様に立ち去る。
「お父様の荷物は残念ね〜。おかげで私の荷物は無事でした」
「ほぅ、嫌味なところは母親似か。あっちはどうだ?」
「お母様が亡くなり、一時はザワつきましたが、仙崎がいるから問題ないわ」
仙崎辰巳。
蘭が幼い頃から、ボディガードとして仕え、蘭を愛しく想うタフガイである。
ヤクザは気に入らないが、蘭の為にいた。
「私の心配より、お父様はご自分のことを考えるべきじゃないかしら?」
「どういうことだ?」
「今回の一件、私達の動きを知る誰かが、通報したとしか考えられないわ」
「内通者か…あり得んな」
事実、黒龍会内で龍造に刃向かうものはない。
「まっ、お互い気をつけましょ」
部屋を出かけて立ち止まる蘭。
振り向きもせずに呟いた。
「港には、手は打ったから。 仙崎、車を」
軽く一礼して、先に出ていく。
後に続く蘭の顔には、微かな笑みが浮かぶ。
一年前、香港の三連会と手を結ぶため、龍造は妻を交換条件として差し出した。
いわゆる人質である。
ヤクザの妻として、乱れることなく従う母。
その子とは言え、14歳の子供に理解できる筈はなく、蘭は一人で泣いた。
仙崎辰巳だけが、その彼女を知っている。
中国へ渡航後暫くして、母の自害を知った。
蘭はそれ以来、龍造を憎んでいたのである。
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