1章. 種火

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〜大井コンテナ埠頭〜 調査完了の連絡を受け、現場を訪れた渋川。 ふと、美咲の車があることに気付く。 捜査が終わったのは、夜中の2時。 冷たい雨が降っている。 (結局帰らなかったのか…) 傘をさして車に近づく渋川が、異変を感じた。 開いたままのドア。 そこから微かに続く赤い跡。 恐る恐る血の跡を辿る。 「そんな!」 (そんなはずでは…) 埠頭とコンテナ船の隙間。 その狭い海に、美咲の体が浮かんでいた。 その後、港湾警察が彼女を引き上げ、港署刑事課の福本龍平が担当した。 彼らが着いた時には、血痕は雨に消えており、検死の結果は溺死と診断。 調査完了時の彼女は、かなり疲れていたとの証言もあり、誤って海に落ち、コンテナ船に挟まれ溺れた、という事故で処理された。 渋川は、雨に消えた証拠を知らせず、車のドアを拭き、閉めた後で通報したのである。 新宿署殺人課に勤務していた美咲の夫は、その判定を受け入れず、何度も現場に出向き、コンテナ船の捜査に関与した全員から話を聞いた。 しかし、事件の証拠や証言は、何一つとして得られなかったのである。 公安局も、事件となれば埠頭が封鎖され、大きな痛手となるため、避けたかった。 事実、コンテナ船に関する事故も少なくはなかった。 そんなある日。 彼は、一つだけ残ったコンテナに気付く。 荷受け人は、株式会社エックス。 架空の会社であることは、直ぐに判明した。 湾岸警察の立会いのもと、コンテナを解錠した瞬間。 「うえっ…何だこの匂いは!」 湾岸警察達が思わず下がる。 殺人課の彼には、その匂いが何か分かった。 決して慣れることのない死臭。 コンテナの中からは、若い中国人女性の腐乱死体が、30体見つかったのである。 中国からの密航。 黒社会と日本の裏社会で、取り引きされる若い中国人女性は多い。 中国マフィアは、船の手配、旅券の偽造、密航先での就職の斡旋などを行い、世界中に出先機関をもつ。 日本政府は、出入国管理法を改正して「集団密航罪」を新たに設けるなど、取り締まりを強化しているが、流入の増加は止まることはない。 国籍を持つ在日中国人は、約78万人。 不法滞在者数は1万人を超えると言う。 不法滞在している中人女性の多くは、チャイニーズマフィア、又は提携した日本の暴力団が経営する違法風俗店で働き、一人当たり月に200万円以上を稼いでいる。 チャイニーズマフィアはみかじめ料は取らず、開業のための内装、備品準備、ホームページ制作などで利益を得ているとされるが、日本の警察は見て見ぬふりを続けているのである。 コンテナの30人は、三連会から黒龍会の山崎龍造が買い受けたものであった。
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