2章. 始まり

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2章. 始まり

〜警視庁凶悪犯罪対策本部〜 東京台場にある30階建てのビル。 先の凶悪事件により、損害を受けたフロアの修復がようやく完了した。 「新しいっていいわね〜」 強化ガラス張りに改装されたビル。 その前に立ち、5階からの東京を眺めるミニスカハイヒールの鳳来咲。 「咲さん、下から丸見えですよ、全くもう」 刑事課にもなれてきた神崎昴。 「残念でした!このガラスは、外からは見えないのよね〜部長?」 「ああ、あれか…そこのスイッチで切り替えるらしいが…」 刑事部長の富士本恭介…新しいものには弱い。 「えっ…」 下から見上げている男性陣に気付く咲。 スマホを向ける者もいた。 「うそっ💦セクハラよ!盗撮よ、逮捕よ❗️」 慌ててスイッチを入れた。 「猥褻物陳列罪じゃねぇか?」 冷やかす宮本淳一。 「全く、油断も隙もありゃしないわ!」 「咲さん、そんな呑気なこと言ってると…」 昴に合わせて、刑事課の電話が鳴った。 「マジか❗️ はい、警視庁刑事課」 素早く咲が取り、すかさずスピーカーフォンに切り替える。 「東京湾、城南島海浜公園付近で、沈んでいた車を発見。車内に若い女性2名の遺体あり、出動をお願いします」 「またかよ」 「淳、ボヤいてないで早く行くわよ!」 妻の宮本紗夜が上着を羽織る。 「紗夜、淳よろしく」 指示を出す咲が、富士本を伺う。 黙って頷き、写真の貼られたボードを見る。 「6人目か…」 ため息の様に呟いた。 この一月で4人の若い女性が殺害されていた。 いずれも密航と思われる中国人であり、名前も住所も分からず、捜査は難航している。 「また密航者でしょうか?」 「法務省の施策も効き目はなし…か」 「って言うより、法務大臣が変わってから、取締り強化の法案ばかり制定されてるけど、逆に抜け道を作ってるだけよ」 具体的な縛りを打ち出すことで、対面上は強化された感はあった。 「確かにそうですよね。明確にしたが故に、それに該当しないものは良しってことに…」 その時、ビル内緊急放送のベルが鳴り響いた。 緊張が走る。 メインモニターに、その様子が映った。 『つい先程、大阪箕面にある、飛鳥組の組長宅が大規模な襲撃を受け、飛鳥貞治組長含め数名の組員の死亡が確認されました』 「何ですって⁉️」 モニターには、燃え盛る邸宅や、爆破された建屋が映し出され、大勢の警官と消防隊員が救助活動を繰り広げていた。 咄嗟に電話をかける咲。 「くっ!繋がるわけないか」 「まるで戦場の様な酷さですね」 「(じん)…」 関東を束ねる飛鳥組若頭、飛鳥神を気遣う咲。 2人は今や恋仲になっていたのである。 咲の携帯が鳴る。 「神❗️大変なことに…」 「あぁ、生い先長くはねぇと思ってはいたが、殺られたとなると、話が違う。今、事を抑えられそうな奴を何人か行かせたところだ」 「神、あなたは行かなくていいの?」 「今はちょっとな…東京(ここ)を離れる訳にはいかねぇんだ。恐らくこれは、俺を(おび)き出す罠だ」 「罠?」 「悪ィ咲、また落ち着いてからな。あぁそうだ!お前んとこの国枝って奴にも、気を付けろって言ってくれ」 そう言って電話は切れた。 「国枝…って」 「未解決事件特捜部の国枝部長か?彼がどうかしたのか、咲?」 放心状態の咲。 そもそも警視庁の刑事とヤクザの組長である。 そのヤクザが、特捜部長を気遣うことも、普通はない。 「いったい…何が起きてるの…」 「咲、大丈夫か?」 こんな彼女を見たことがない。 嫌な予感が、富士本を捕らえ始めていた。
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