2章. 始まり

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〜城南島海浜公園〜 淳一と紗夜が着いた時には、遺体は車から出され、ブルーシートが周りを囲んでいた。 手帳のバッジを見せて中へ入る2人。 「意外と早かったな」 「豊川さん」 警視庁鑑識・科学捜査部長、豊川勝政。 部長になった今も、現場を離れられない熱血な刑事である。 「はやり、中国人みたいだな」 「引き上げた時は、手を繋いでたらしい」 「自殺…ですか?」 「普通に見たらな。薬やって恐怖を消して、ドボン……じゃあねぇな」 しゃがんで手を合わせ、足にかけられたシートを(めく)る豊川。 「靴は見つかっていない。で、この跡だ」 足の甲に細い窪みができていた。 「色が…ないわ」 「さすが紗夜さん。これは何かで縛られた跡だ。繋いでいたって言う2人の手にもあった」 「死んだ後に、縛られたってことね」 「足の甲を縛り付けるとしたら…アクセルか!…しかし、肝心の縛ったものは?」 淳一が慰留品や車内にあったものを見渡す。 「科学捜査研究部ってのも面倒見る様になってな、俺も知識が付いちまった。最近は、水で簡単に溶けちまう繊維があるらしい」 「PVA…ポリビニルアルコール」 「知ってたか紗夜。確か…そんな奴だ。市販でも手に入るらしいが、問題は…なぜそんな面倒な事をするかだ」 豊川が紗夜を見る。 「彼女たちの死因は、薬物の大量摂取。抵抗の後はなし…自殺した2人を車に乗せて、自殺に見せかけた他殺と思わせた。つまり、死体を遺棄した人物には、2人への殺意はない。逆に憐れみを持って、彼女たちを追い詰めた者へ反攻した」 「さすが心理捜査官様だ。これは4件の殺人とは、別の者の仕業だな。敵…と言ってもいいかもしれねぇ…ん?」 豊川が近づいて来る人物に気付いた。 「これは、国枝部長。どうしてまた?」 「顔を見てもいいかな?」 しゃがんで手を合わせ、シートを捲る。 その顔が悲しみに歪む。 (彼女たちを知っている) 紗夜が、国枝の心を覗いた。 「国枝部長、誰なんですか?」 「そうか、紗夜さんには隠せないんだったな」 「すみません。無駄に覗いたりはしません」 分かってるよ。 そんな優しい顔で紗夜を見る。 「本名は知らんが、ミーアとサリーだ。私が情報屋として利用したばかりに…こんなことになってしまった」 「未解決事件の捜査ですか?」 「ああ、彼女たちの方から、私に接触してきたんだ。よほど飼い主に恨みがある様子だった」 「飼い主って…」 「彼女たちを誘拐か買収して、中国から密航させた奴ら、或いはそれを買った奴らの事だ」 淳一が、怒りを抑えているのが分かった。 「すまない、邪魔したな」 「いったい…」 去りながら、紗夜の言葉を片手を上げて遮る。 「捜査内容はまだ言えない。いや、聞かない方がいい。悪いな、紗夜さん」 (孤独、哀しみ、後悔。そして怒り🔥) 物静かな背中に、言葉では語れない、熱いものを感じた紗夜であった。 そこへ咲からの連絡が入った…
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