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〜城南島海浜公園〜
淳一と紗夜が着いた時には、遺体は車から出され、ブルーシートが周りを囲んでいた。
手帳のバッジを見せて中へ入る2人。
「意外と早かったな」
「豊川さん」
警視庁鑑識・科学捜査部長、豊川勝政。
部長になった今も、現場を離れられない熱血な刑事である。
「はやり、中国人みたいだな」
「引き上げた時は、手を繋いでたらしい」
「自殺…ですか?」
「普通に見たらな。薬やって恐怖を消して、ドボン……じゃあねぇな」
しゃがんで手を合わせ、足にかけられたシートを捲る豊川。
「靴は見つかっていない。で、この跡だ」
足の甲に細い窪みができていた。
「色が…ないわ」
「さすが紗夜さん。これは何かで縛られた跡だ。繋いでいたって言う2人の手にもあった」
「死んだ後に、縛られたってことね」
「足の甲を縛り付けるとしたら…アクセルか!…しかし、肝心の縛ったものは?」
淳一が慰留品や車内にあったものを見渡す。
「科学捜査研究部ってのも面倒見る様になってな、俺も知識が付いちまった。最近は、水で簡単に溶けちまう繊維があるらしい」
「PVA…ポリビニルアルコール」
「知ってたか紗夜。確か…そんな奴だ。市販でも手に入るらしいが、問題は…なぜそんな面倒な事をするかだ」
豊川が紗夜を見る。
「彼女たちの死因は、薬物の大量摂取。抵抗の後はなし…自殺した2人を車に乗せて、自殺に見せかけた他殺と思わせた。つまり、死体を遺棄した人物には、2人への殺意はない。逆に憐れみを持って、彼女たちを追い詰めた者へ反攻した」
「さすが心理捜査官様だ。これは4件の殺人とは、別の者の仕業だな。敵…と言ってもいいかもしれねぇ…ん?」
豊川が近づいて来る人物に気付いた。
「これは、国枝部長。どうしてまた?」
「顔を見てもいいかな?」
しゃがんで手を合わせ、シートを捲る。
その顔が悲しみに歪む。
(彼女たちを知っている)
紗夜が、国枝の心を覗いた。
「国枝部長、誰なんですか?」
「そうか、紗夜さんには隠せないんだったな」
「すみません。無駄に覗いたりはしません」
分かってるよ。
そんな優しい顔で紗夜を見る。
「本名は知らんが、ミーアとサリーだ。私が情報屋として利用したばかりに…こんなことになってしまった」
「未解決事件の捜査ですか?」
「ああ、彼女たちの方から、私に接触してきたんだ。よほど飼い主に恨みがある様子だった」
「飼い主って…」
「彼女たちを誘拐か買収して、中国から密航させた奴ら、或いはそれを買った奴らの事だ」
淳一が、怒りを抑えているのが分かった。
「すまない、邪魔したな」
「いったい…」
去りながら、紗夜の言葉を片手を上げて遮る。
「捜査内容はまだ言えない。いや、聞かない方がいい。悪いな、紗夜さん」
(孤独、哀しみ、後悔。そして怒り🔥)
物静かな背中に、言葉では語れない、熱いものを感じた紗夜であった。
そこへ咲からの連絡が入った…
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