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「子供は産めって言ってある」
「そうですか?」
「『シングルマザーになっちゃうな』って笑ってたぞ、水瀬」
「子供生まれたら、親子鑑定してもらって、何が何でも結婚してもらいます。水瀬さん、僕の子供だって認めてくれないんで」
「自分が父親だっていう自信があるわけ?」
「あります」
僕は視線を外さなかった。
「本気なわけ?」
「本気です」
「俺の子供かもよ?」
「その時はその時で、頑張るんで」
「何を?」
「水瀬さんに認められる男になります。父親としても」
宗像さんはちょっと面白そうに口角だけ上げたけど、目は全く笑っていなかった。
「アイツ泣かせたら、俺が許さないけど」
「泣かせません。僕が泣くことはあるかもしれませんが」
「もう泣いたんだろ?」
「なんでそれを?」
「病院の前は目立つからなぁ」
それって見られてたっていうこと?
あの無様なプロポーズを?
「あの水瀬がお前みたいなのに堕ちるとはな・・・・」
水瀬さんの浮いた話を全く聞かなかった訳じゃない。
取引先の人から誘われることも多かったらしいし。
ただそんな噂はすぐに消えて行ったから、頓着してこなかったけど、これからはもっと気を配らなきゃいけないのかもしれない。
水瀬さんと噂になった人たちはどれもハイスペックだったことは間違いない。
「えっと・・・・」
「いなかったもんな、お前みたいなタイプ、水瀬の周りに。ちょっと甘くみてたわ、お前のこと」
「甘くみてた?」
「湊がイラつくのが分かる」
「宗像さん?」
「半端な気持ちじゃないんだろうな?」
「水瀬さん相手に、半端な気持ちとか、あり得ないですし」
「水瀬になにかあったら、マジで〆るから。覚悟しておけよ」
「そのくらいの覚悟なら、いくらでも出来てます」
「甘ちゃんの見かけの割に、言うねぇ、お前」
宗像さんはそう言うと、仲居さんにグラスをもう一つ持ってこさせて、僕にも日本酒をついでくれた。
これは飲むの一択しかないだろう。日本酒は得意じゃないけど・・・
「子供の名付け親は俺がなってやるわ」
日本酒のせいか、喉が熱くて、むせそうになったけど、どうにかやり過ごす。
今、何を言われた?
名付け親って、ゴッドファーザーですか?
ってツッコミたくなったけど、さすがにそこは沈黙することにした。
名付け親って子供の後見もしてくれるということだろうか?
もしかして、この人は意外に、いや多分きっと愛情深い人なのかもしれないと思えてきたけど。
でも僕だって、水瀬さんへの気持ちならだれにも負ける気がしないし。
そう言いたかったけど、やはり社長の圧は強かった。
言葉にはできなかったから、そっと心の中で呟いていた。
水瀬さんの言う通り、僕がまだまだなのは自覚している。
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