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俺は受話器をとって、湊に内線をかけた。
「佑季、そろそろ日和をウチに引き抜かないか?」
「いきなりなんだよ?」
相変わらず、不機嫌そうな声だなと思う。俺の電話にはいつだって不機嫌オーラ満載だ。社長様からの連絡だぞ、と言いたいところだが佑季にヘソを曲げられる方が厄介だ。
「日和、今の会社、仕事のし過ぎで、この前、倒れたんだろ?」
あの時の佑季のお怒りモードはマックスだった。
救急車で運ばれたらしい日和の病院から電話があり、仕事なんか迷うことなく放り出して駆け付けていたからな。どこまで「日和大事」なんだよ。
まぁ、佑季が行かなきゃ俺が行ってたけど。
「とりあえず休職しろとは言ってるけど。どうかしたのか?」
愛想ゼロモードから少し人間味のある声になってきている。
「水瀬が今度、産休とるから、人が足らないんだ。」
一瞬の間があったと思う。
「水瀬、結婚するの、結城と?」
淡々とした口調は変わらない。
ホントに滅多なことでは、コイツは少しも驚いた様子を見せない。
会社モード湊には想定内のことなのか?
「結城には知らせてないらしい。同意書にサインしろって言われた」
「同意書?」
「同じことを2度もさせたくないんだよ」
さっきより長い無言。勘のいい佑季ならすべてを察してくれたはず。
「お前はいいわけ?水瀬が結城と結婚しても・・・」
少しだけ、感情がある声で聞いてくる。
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