序章:紅と赤の日

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 聖王暦二八二年二月。  大陸の中心国であったグランディア王国は、宰相ヴォルツ・グレイマーの反逆に遭い、女王は囚われ、心ある家臣は全て、処刑されるか散り散りに国外へ逃亡して、国としての機能を停止させた。  ヴォルツは自らを『神に選ばれし真の王者』と名乗り、女王を妻とすると、グランディア帝国の発足を宣言、大陸各地へ兵を送り始めた。  友好国、中立国。女王が築いてきた絆を嘲笑うがごとく叩き潰し、立場も地方も関係無く侵略された各国は、あるいは主君を失って瓦解し、あるいは帝国に恭順の意を示して何とか生き永らえた。 『争い無き世界を望む優女王』と称えられていた女王はやがて、一人の皇子を遺して他界する。  その後、帝国の暴虐は更に度を増し、人々は圧政に苦しんで、女王の評価は簡単に裏返った。 『平和を守れなかった史上最悪の魔女』 『シャングリアに戦乱をもたらした悪女』  彼らは口々に、自分達を守ってくれた女王を非難し、怨嗟の声は大陸中に満ちた。  彼らはまだ、知らない。  死して尚、誹りという屈辱を甘んじて受ける彼女が、この世界に残した、希望の種を。  その種は、辺境の地で、静かに芽吹きつつある事を。
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