蘇る獣の群れ

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蘇る獣の群れ

『それはねー!タコちゃんの方はリリーたちが来る前から発動してて、ルルのはあえて後から呼んだんだよー。保全戦闘(レコーディング)中って敵がいつ来るか分からない状況だから入ったらすぐに発動させる人もいるんだよ。でもリリー達がそうしなかったのはトレイスが勿体無いからなのさ。 お恥ずかしい話ではありますがリリー達のトレイス量は他の人たちに比べても多くありません!曲名を呼んじゃうとその瞬間からトレイスが消費され続けちゃうんだよね…能力を使わなくてもね!だからギリギリまで使わなかったって訳。それに呼んだ時点で攻撃の意思を放つことになるから警戒して相手の方から距離を取ってくれることもあるしね!そこのやり取りはボクシーちゃん次第だよ。』 『これで基本は大丈夫かしらね?それじゃあ本番を始めようかしら。敵は…そうねぇ…この間の“彼”なんかが丁度いいかしら。ステージも同じにしておいたからそれなりの程度は掴めるはずよ。ひとまず箱嵜ちゃんが持ってるその“能力”だけで戦って見せてちょうだい。』 『入力条件確認 エピソード名“悪魔の1ダース” 仮想敵“イニサルド・ドープ” ステージ生成中…完了 仮想保全戦闘開始』 ステージ生成中の声と共にリリアンヌ十三世は床下へ潜って消え、真白だった空間にあの日の街角の倉庫が作り出される。天井は陰り空にはあの日と同じ月が浮かんでいた。 目の前に立つのは金髪で坊主の男。眼鏡を押し上げながらこちらを警戒している。そこにはいないと頭では分かっているはずなのにあの日の緊張が込み上げ身体を縛り付ける。 『そんなに緊張しなくて大丈夫よ。強さの設定は下げてあるし、時の瓦礫(クロノデブリス)も制限をかけてるわ。どう殺されても死ぬことは無いから安心なさって。』 その言葉が死ぬことを直に明示させ悪影響を生む。そんな僕の心を推し量る訳もなく敵が襲いかかる。イニサルドは獣人へと姿を変え真っ直ぐ真正面から僕を狙って距離を詰める。 「樂奏演戯(フルハウル)【ワンダースクエアボックス】」 敵との間に十二個の不格好なボックスが具現化され行く手を阻む。盾のような形で出すつもりだったけどトレイスの扱いが難しいな。 青く半透明なボックスを乗り越えてそれを足掛かりに宙に飛ぶとその鋭い爪を僕目掛けて振り下ろす。姿はこの目でしっかりと捉えられている。今から発動しても十分に間に合うことを確認し能力を発動させた。 『トレイス体が仮想敵によって破壊されました 再戦闘準備中…』 俯いて衝撃があった場所へと目をやると、後方から迫っていたもう一匹の敵によって腹部を貫かれそこから毛深い獣の腕が飛び出していた。痕跡索(トレイサーズ)が形作った半ば幻影のような存在のため痛みや負傷こそ無いが、これが実戦であったことを想像すると背筋を悪寒が走り抜けた。 『最初の防御。…まぁ形は不格好だったけれど初めてにしては上手よ。そして敵から目を逸らさずに追撃を防ぐ。そこまでは良かったけれど敵は一人とは限らなくてよ?視野が狭まってしまっては見えるものも見えなくなってしまうわ。敵が何人まで分身可能かは言わないでおくわね。だってそっちの方が楽しいでしょ?』 映像が切り替わり始めへと戻る。先と同じく真正面から突っ込んでくる敵。イメージは大きな鉄板。能力を使用し防壁を作り出す。敵の前に立ち塞がる先程よりも高い壁。大きさは縦2m横1m奥行0.5m。もう少し薄くつもりだったけど…まぁ取りあえずは良しとしよう。 敵の前に作り出した防壁は軽く飛び越えるれ勢いそのまま先程と同じように僕へ爪を振り下ろす。振り返るよりも先に自らの背後に2m×2mの防壁を作り出す。振り向いた先には敵の姿は無い。厚さは…気持ち薄くなったかどうかというところ。後ろにいないとなると…。 視線を先の敵へ戻すとその影を二つに増やし襲いかかるところだった。即座に防壁を展開しその攻撃を防ぐ。安心も束の間、背後からの足音に意識を向ける。 視線を再度後ろへ戻すと三体目が僕の視界から外れようとしたのか背を低く落とし地面を踏み込み私の背を斬り上げる所だった。 一番初めに作り出した防壁という言葉がよく似合う分厚いボックスへトレイスを送って、それを僕の背後にいたその敵へとぶつける。敵は大きく吹き飛び倉庫の扉へ叩き付けられた。正面から仕掛けてきた残る二人は距離を取りこちらの出方を窺っている。
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