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えりちゃん、今どこにいるの?
実樹が小学一年生の頃、近所の借家に引っ越してきたえりちゃん。
同じクラスだった。席も近かった。
えりちゃんと呼んでいたけど、名前がひらがななのか、漢字なのか知らない。
名字も覚えてない。
すべては薄ボンヤリとした記憶の中。
えりちゃんは、肌が白く、茶色がかった髪はショートカット。目がキリッと大きく可愛かった。
家が近所だから、自然と仲良しになった。
六歳ぐらいの子どもだから、家を行き来したり、庭や近くの公園で遊んでいた。
一緒にえりちゃんの家に行くと、ある日、えりちゃんのお母さんが仁王立ちして家の前で待っていたことがあった。
えりちゃんと顔が全然似てない。笑わないお母さん。
隣にお母さんそっくりの妹がいた。
えりちゃんは怒られて、謝っていた気がする。
すべては薄ボンヤリした記憶の中。
実樹のママが、えりちゃんの家の隣の人と仲良しで、えりちゃんがよく家の外に出されて泣いている、ということを知った。
ママは「えりちゃん、かわいそうに。お母さんにいじめられているんだって」というようなことを言っていた。
でも、えりちゃんは、いつも笑って元気だった。
ある日、えりちゃんがいなくなった。
実樹のママによると、どこかにもらわれていったそうだ。
「ひどいことする。ほんとかわいそう」のようなことをママは悲しそうな険しい顔で話した。
実樹もそう思った。ママの表情からも心に沁みた。
本当のお母さんじゃなかったことが何となくわかった。
実樹にとって初めての友達だった。
一緒に何ヶ月過ごしたのかもわからない。
すべては薄ボンヤリとした記憶の中。
その家族もどこかに引っ越していなくなった。
その後、何年かして、制服姿の実樹は通学のバスに乗って、いつものように窓の外を眺めていた。
もしかして、えりちゃん?
ランドセルを背負っている女の子。
記憶の中のえりちゃんに似ていた。
久しぶりに思い出した。
えりちゃんがいたら、学校生活もっと楽しいだろうな。
元気にしてるだろうか。
今どこにいるのだろう。
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