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【第一部】一章 「北の灯台」
僕は、国の最北端にある岬の灯台で管理人をしている。
船舶の誘導だけでなく、一応監視としての業務もあるが、もう十年以上、所属不明の船がこの灯台から観測されることもないので、言ってしまえば、かなり楽な仕事だった。
また、灯台の足元には小さな家が付いており、そこが僕の住居となっている。
監視をする時間は決められていて、それ以外の時間は好きにしていいことになっているが、近くには誰も住んでいないため、人と話す機会は街に買い出しに下りた時くらいのものだ。
僕には友人と呼べる相手はいないが、特に不便を感じたこともない。
野菜を育てたり、岬から森へ自転車で下ったり、灯台から見える景色をスケッチしたりして暮らしている。毎回同じ絵になってしまうが、不思議と何度描いても飽きないものなのだ。
森には動物もいるが狩をしたことはない。肉が食べたい時は街で買って来ている。
僕はそんな、風のない日の海のような、どこまでも穏やかな生活を送っていた。
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