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【第一部】ニ章「出会い」
その夜は、大雪が降っていた。
国の最北端といってもこの国自体雪国ではないので、雪が降ることは珍しい。そんな急な大雪おかげで灯台から見える景色もいつもとは大きく異なり、僕は何だか少しだけわくわくしていた。
久しぶりに付けたストーブで暖まりながら海の様子を確認していた時、大粒の雪が降りしきる向こう。小舟が一瞬、見えた気がした。
「えっ」と思わず声が出た。まさか……
もう十年以上こんなことはなかったのに。僕は照明の角度をそちらの方に向け目を凝らしたが、やはり間違いではなかった。
この極寒の中、小舟はこちらに向かって来ていた。
僕は傍に置いてあったライフル銃とランタンを手にとり、厚手のムートンコートを着ると外に出た。
浜の近くまで下って行き確認すると、小舟は既に着岸していた。
僕は足音を殺しながら相手に悟られない距離まで近づき、岩陰に隠れて様子を伺った。
しかし見る限り着岸したというより、漂着したという表現の方が近いのかもしれない。止まっている場所も、角度も、あまり適切とはいえないからだ。
無人の小舟がどこかから流れて来ただけなんだろうか? そうであれば僕としては面倒がなくてありがたい。
——僕は、しばらくその場から小舟の様子を見ていたが、誰も降りてくる気配がないのでゆっくりと近付き、ランタンの光を向けた。
するとそこに見えたのは、小舟の上で気絶している子供の姿で、駆け寄ってみるとそれは、およそ十歳程の年頃の少女であった。
一体どこから……
どのくらいの時間、こんな状態で……
事情は分からないがこのままでは死んでしまう。
僕は少女をおぶると灯台下の家まで走った。
部屋に入ると、彼女の濡れたコートを脱がせ、タオルで髪の毛や手などを拭き、暖炉の近くに寝かせ毛布で包んだ。
手は氷のように冷たく、血の気が引き顔は白くなっているが、脈はまだ打っている。どうか間に合ってくれと、あとは願うしかなかった。
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