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少し肩を落として、
「リスクを負ってでも茄乃くんを手放したくない浦霧さんの気持ちは本心だったと思います。
では何故急に別れ話を持ち出したか。
ということですが、、、
それは自身の家庭を守る為ではありません」
「じゃ何?」
瀬髙の言葉に はッと顔を上げた茄乃が何とも可愛いらしく、挫けそうになりながらも
車のエンジンをかけつつ続けた。
『それはですね』と、極力感情を見せないよう、眼鏡の縁を持ち上げる。
「それは君が」
「俺が?」
「『面倒くさい奴』だからです」
茄乃が あんぐりと口を開ける。
一度口火を切ってしまえば車の走行スピードに合わせてつらつらと本音がついて出た。
「気を引く為に目の下に妙なクマを作ったり、リスカの真似事をしてみたり挙げ句には死ぬなどと言い出したり。
浦霧さんが別れを切り出した理由は、あなたに付き合うのが面倒くさくなったからです。
誰が見ても君の顔や仕草はとても可愛い、見た目にも つるつるした手と頬、ふっくらした唇とだけでも付き合いたいくらいですよ。、、、僕はゲイなので」
言うつもりは全くなかったが、瀬髙はどんな場面でも自分のマイノリティを『隠す』ことはしなかった。
「ですので茄乃君さえその気になれば恋愛を前提にした同性との出会いなど山ほどあるでしょう。
ですが中身が今のままではダメです。
浦霧さんのみならず他の人にとっても今の君は、何の魅力もない、ただの面倒くさい奴です」
握る手を開いてハンドルを軽く叩き、長々と力説する瀬髙の横で、
「ぅ、、、うぅ、、、」
「え? な、茄乃くん?」
茄乃が肩を竦めて再び泣き出した。
「ぅうっ、ぅぅうううっ、、、」
「あっ、あ、いや。
すみません、大切なお客様につい」
「ぅわぁああ~んっ」
「な、泣かないで下さい。
ごめんなさいっ、謝りますから」
「この人がぁっ
俺の事をぉっ面倒くさい奴って言った~っ、
うっ、わぁぁぁ~っっん」
突然、
車の窓を開けた茄乃が外へ向かって叫び出した。
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