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その後、
夢実の提案に『是』とも『否』とも言わない茄乃を伴い、社用車から個人の車に乗り換えた瀬髙はシティホームを後にした。
本人さえ良ければ知り合いが経営するビジネスホテルを紹介するつもりで車を走らせたのだが、途中『腹が減った』と言うので、
「食べたいものはありますか?
洋食なら近くに手頃なレストランが、中華なら僕が行きつけてる美味しい店へお連れします。
あと、ここからでしたら市場も近いので新鮮なネタが自慢の寿司屋もありますよ」
と誘ったのだが、空腹の割には肉は好きじゃないだの寿司は気分じゃないだのと首を横に振る茄乃が最終的に希望したのは、カフェを併設している最近流行りのフルーツサンド専門店だった。
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プライベートで男と、しかも一目惚れに近いほどの相手を伴って、久しぶりにスイーツショップのカフェテーブルについた瀬髙は、オーダーを済ませると先に届いたティーグラスに直接口をつけ、半分ほど飲んでから大きく息をついた。
「彼女の言ったことは真に受けないで下さい。
茄乃君にはもっとご自分を大切にして頂きたいですし、僕にしましても一晩限りの関係などと言うのはあり得ないことですので」
緊張する己を意識し、そうは言っても冷静さは失わず、『夢実が口にしたことは自分の信条とも全くかけ離れている』ということだけは何よりも先に伝えておこうと思った。
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