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「本当は」
口の中にあるものを飲み込んだ茄乃は両手にフルーツサンドを持ったまま一旦目を開き、差し出されたタオルには首を振った。
「ずっと来たかったんだ、ここ。
浦霧さんと食べるのはいつも高級な店の個室ばっかで。それに」
再びかぶりつき、いくらも噛まないうちに飲み込んで忙しそうに口をひらく。
「夕飯にフルーツサンドを食べたいって言ったら、
『夜はちゃんとしたものを食べなさい』って注意されたし」
瀬髙は穏やかに笑って手を伸ばし、クリームのついた茄乃の唇をタオルで拭ってやった。
「美味しく食べるなら、何でも良いんですよ。
その方が身体にとっては余程いい」
「瀬髙さんも食べてみて」
「頂きます」
しばらくして、
「嫌じゃなかったら」
食べるペースは落とさず、目も合わさないまま茄乃が少し恥ずかしそうに呟いた。
「はい?」
「俺と」
茄乃の言わんとしていることが瀬髙にはすぐわかったのだが、
「先ほども言いましたが僕は『遊び』はしません。性格上できないんです」
その上で言い出しにくくもある『制御できない性癖』のようなものを頭の中で巡らした。
「遊びじゃなくて、助けると思ってくれればいいよ。
大げさ抜きにして心の傷、本当に痛くて仕方ないんだよね。浦霧さんとのことでは」
「それでもできません。
セックスは結婚、、、つまり僕の場合は人生のパートナーとなること、さらにその前提としてお付き合い、更に更にその前提として、決して逃げ、、、別れないと約束して下さらなければ無理です」
相手が茄乃ならば尚更である。
自分に対して堅物のイメージしか持っていないであろう茄乃に、
『豹変した素の姿を事前に受け入れてもらわなければならない』などと誰が言えるだろう。
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