ペーパーエフェクト ─ナノくん編─

22/37
前へ
/37ページ
次へ
「本当は」 口の中にあるものを飲み込んだ茄乃は両手にフルーツサンドを持ったまま一旦目を開き、差し出されたタオルには首を振った。 「ずっと来たかったんだ、ここ。 浦霧さんと食べるのはいつも高級な店の個室ばっかで。それに」 再びかぶりつき、いくらも噛まないうちに飲み込んで忙しそうに口をひらく。 「夕飯にフルーツサンドを食べたいって言ったら、 『夜はちゃんとしたものを食べなさい』って注意されたし」 瀬髙は穏やかに笑って手を伸ばし、クリームのついた茄乃の唇をタオルで拭ってやった。 「美味しく食べるなら、何でも良いんですよ。 その方が身体にとっては余程いい」 「瀬髙さんも食べてみて」 「頂きます」 しばらくして、 「嫌じゃなかったら」 食べるペースは落とさず、目も合わさないまま茄乃が少し恥ずかしそうに呟いた。 「はい?」 「俺と」 茄乃の言わんとしていることが瀬髙にはすぐわかったのだが、 「先ほども言いましたが僕は『遊び』はしません。性格上できないんです」 その上で言い出しにくくもある『制御できない性癖』のようなもの(・・・・・・)を頭の中で巡らした。 「遊びじゃなくて、助けると思ってくれればいいよ。 大げさ抜きにして心の傷、本当に痛くて仕方ないんだよね。浦霧さんとのことでは」 「それでもできません。 セックスは結婚、、、つまり僕の場合は人生のパートナーとなること、さらにその前提としてお付き合い、更に更にその前提として、決して逃げ、、、別れないと約束して下さらなければ無理です」 相手が茄乃ならば尚更である。 自分に対して堅物(かたぶつ)のイメージしか持っていないであろう茄乃に、 『豹変した素の姿を事前に受け入れてもらわなければならない』などと誰が言えるだろう。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加