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店を出て近くのコインパーキングまでは茄乃の主導だった。
店に滞在している間に陽はとっぷりと暮れ、穏やかであったが吹く風は冷たい。
駐車場には薄暗いライトがかろうじて敷地の四隅を照らし、車の脇まで引っ張られてきた瀬髙が茄乃を見下ろすと、オレンジの光を受けた、この上なく愛らしいつぶらな瞳が見上げていた。
柔らかくも するりとした手は瀬髙の手首を持ったまま離さず、
その繊細な圧は胸の奥を熱くさせ、更には淫らな疼きとなって瀬髙の下腹にジンッとした不覚を伝え続けている。
「本当にいけません、茄乃くん」
『車のドアを開けろ』と目で催促する茄乃を瀬髙は頑なに拒んだ。
「いけなくない。
瀬髙さん、俺の顔や仕草が可愛いって言ってくれたでしょ?」
「言いました。それは本心です。
ですが僕の信条としましては、
『本気で付き合う』という互いの意思確約がないとですね、、、」
「あーっもう。
さっきっから『本気』だとか『確約』だとか面倒くさいな。
互いを知らないとこから始めるんだから先の事なんてわからないじゃないか」
「ですから先ずはお友達として」
瀬髙には茄乃が半ばやけくそで物を言っているのではないかと思えてならない。
「友達、、、って」
とはいえ今、理想そのものの相手が目の前にいて『抱いてくれ』と訴えているのは夢のような事実なわけで、今この時を逃せば二度と同じ機会はやって来ないだろうとも思えば、人生初と言っても過言でないほど気持ちがぐらついた。
であるから、
「僕は茄乃君に惚れていると確信しています。
だからこそ、君の心と身体を守りたいのです」
辛うじて言えるのは、この一言一択である。
瀬髙の真摯な眼差しに茄乃はしばらく考え、
それから呟く程度に口を開いた。
「、、、た」
「え?」
「わかった。
俺、瀬髙さんと付き合うから」
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