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「のづほ、、、ってこう書くんだ」
「それからこれを」
「え?」
瀬髙が上着の内ポケットから取り出したのは小さなピルケース様の金属容器で、それを器用に片手で開くと中で自立する二つの指輪を見せた。
「誓いの指輪です。
ここで着けてしまいましょう」
「な、、、なんでそんなもの持ってんの?」
言っている間にも茄乃の薬指には銀色の輪が嵌められ、迫る瀬髙は目尻を上げてにんまりと笑っている。
「いつ未来の伴侶に出逢ってもいいようにと、常日頃から持ち歩いていたものですから。
さすが僕の理想のパートナー、サイズもぴったりです」
「常に持ち歩いてたって、、、」
「さあ、茄乃君も僕の指に着けて下さい」
言ったはものの、瀬髙は茄乃の手は添える程度にして自ら大きい方のリングを薬指に嵌めてしまった。
「いや、瀬髙さ」
言い終わらないうちに瀬髙は茄乃を抱きしめ、顎を取って あっという間に唇も奪った。
少し前に飲んだハイビスカスティーの名残が瀬髙から茄乃の口中に移される。
「ふぁ、、、んっ。、、、まっ、待って、
いきなり、こっ、こんなとこで」
「これで僕らは晴れてパートナー、永遠に離れることはありません」
「ちょっと、ちょっとっ」
「茄乃君の心の傷を治す為、一晩中啼かせまくって浦霧を忘れさせてあげますよ」
驚いた茄乃が離れようとするのを瀬髙は強い力で引き寄せて再び唇を重ねた。
二つあった影は大きな一つの塊となり、茄乃の後頭部を支えていた瀬髙の指の隙間から さらさらとしたまっすぐな髪がいくらかこぼれて風に揺れると、大きな手は愛おしそうに撫で集め、再び支え直した。
しばらくされるままだった茄乃は、絡めてくる瀬髙の舌で はっと我に返り、握った拳で広い胸を押し返す。
その薬指には銀の輪が暗闇の中でキラキラと光っていた。
「た、確かに俺は瀬髙さんと『付き合う』って言ったよ? だけど今すぐにパートナーと決めるのは、」
「あああっっ」
「なっ、なにっ?」
驚く茄乃に向かい、瀬髙は目元を悲しげに歪め、
「ではやっぱり僕と付き合うと言ったのは単なる勢いだったんですね」
落胆そのものの顔で下を向いた。
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