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「うん」
瀬髙の落ち着きある対応に安心したのか、 茄乃はカウンターに設置された加湿器の吹き出し口に申請書をかざし、出てくる蒸気を散らして弄び始めた。
「解約に関してもうお一方の、、、浦霧様の了解は得ておられますか?
本来であればお二方揃って来て頂かないと契約解除はできないので」
純粋というよりは幼さの方が勝る二十歳前の青年一人に、三十過ぎの浦霧は面倒な手続きを押し付けたらしい。
「だけど浦霧さん、『仕事で忙しいから契約の取りやめは俺一人で行ってくれ』って」
「なるほど、、、」
借りた側の勝手な契約解除であれば解除自体をゴネるか、契約金を全額撤収しても良いような案件ではあったが、独り言のように言い訳をする小柄な 茄乃が急に哀れに思え、瀬髙は手元にある契約書の最初のページを開いた。
「わかりました。
ご事情を汲み、今回は例外ということにさせて頂きます。
すぐに手続きに入りましょう」
「、、、ありがと」
契約は二人の連名で成されたものだったが、手付金等々はすでに入金され、解約に伴う諸費用はそこから相殺なので取りっぱぐれの心配もない。
何より目の前で背中を丸めて礼を言う彼の気を楽にさせてやりたかった。
瀬髙はすぐにマンションの管理会社とオーナー、それから上司に連絡を入れ、紙無 茄乃に二人分のサインを貰って契約の取り消しを完了した。
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