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営業車に茄乃を乗せ、一件目に案内した部屋はJRと私鉄が交差する主要駅から徒歩5分ほどのマンションだった。
『掘り出し物など無い』といわれる不動産業界でも珍しいほどの値打ち物件で、築年数が若干古い分キッチンスペースが広く、トイレとバスはそれぞれ独立している。
繁華街のど真ん中に建つ為、昼夜問わず騒がしいことだけが難点と言えば難点だが、
商店街の中に建っている為生活するに必要な店や娯楽施設が混在し、家賃は相場以下という、空きが出ればすぐに埋まるような稀少物件だった。
自分の為の部屋探しにも関わらず、外観と室内、設備をつらと見ただけで 茄乃はボアジャケットの大きなポケットに両手を突っ込んだまま、
「ここでいいや」
となげやりに答えた。
そうなる気持ちはわかるし、正直ここで決めてくれれば楽だった。
が、
「そう簡単に決めてしまわずに。
あと二件は紹介できますから、参考程度に見てみませんか」
「ん、、、。じゃ、そうしようかな」
あまり乗り気でない茄乃を車に乗せ、二件目のマンションへと向かう。
途中沈黙を続けるのも何だと、ハンドルを握る瀬髙は次に案内するマンションの周辺情報を口にした。
「先程のマンションより静かで落ち着いた立地にあるんですよ。
といっても学生が多い街ですので、今話題のセレクトショップや流行りのスイーツが食べられる店などは結構ありまして、若い子が住むには楽しいのではないかと思います。
あ、確かこの先には先日テレビでも紹介されたペットを同伴できるオープンカフェも、、、」
「別に楽しくなんかなくてもいいんだよ。
俺そんなに若くないし、ペットも飼ってないし」
客なのに助手席のシートを選んだ茄乃は窓に肘をかけ、外を眺めながら答える。
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