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1-3
有無を言わさず部屋を追い出され、カインは渋々伝えられた現場へと車を走らせた。相棒となったばかりの男は、出る前に探したがどこにも姿がなかった。仕方なく一人で向かう。
ウィルも何も言わなかったし、向こうは向こうで向かっているのだろう、多分。
パートナーを組まされた初っ端からちぐはぐだが大丈夫だろうかと、一抹の不安が過ったが、頭を振ってその考えを振り払う。他人の心配をしている場合ではない。
ウィルは何も言わなかったが、今回は試験も兼ねているに違いない。他部署から異動していたばかりの男がまともに仕事できるのかどうか。
現場にはすでに人だかりができていた。その手前で停車させた車を降りると、多くの人が名前を呼ぶ声が入り乱れていた。子どもの叫び声もある。
パニックになる人の群れを抜け、規制線の前に立つ警備員へバッジを提示してテープをくぐり、カインは小学校を見上げた。
一階に人影はないようだが、二階から上にはまだ生徒が取り残されている。その校舎の前にはあちこちの芝生が抉れてめちゃくちゃになったグラウンド。
グラウンドの隅には五、六歳ほどの子どもたちが、小さくなって固まっていた。彼らの元気が有り余って荒らされたわけではないというのは、そこら中にあるボールなどを見ればわかる。
中央に佇むジャージ姿の若い男へ視線を転じる。彼の周りにはボールや金属バットがふわふわと浮遊していた。
「対象は子どもじゃないのか」
唐突にそんな声がして振り返ると、ロイが煙草をくゆらせていた。まるで緊張感のない様子に溜息しそうになる。それを堪えて、煙を払いながら出動前に得た情報を共有する。
「ウィルによると、能力暴走者――つまり対象は三十歳男性、小学校教師のレフェクト・パーカー。能力は念力。普段は中程度の能力値だったそうだ。体育の学校見学中に暴走が発症」
「学校見学ね」
呟いてロイはグラウンドから外へと急ぐ団体をみやる。通報から三十分も経っていないのに親が多いのはそのためだろう。
「真面目な性格で、能力の使用もほとんどなかったらしい。暴走とは無縁の人間だと同僚は口を揃えている」
「暴走に使用頻度は関係ないからな」
ロイの冷淡なコメントにはカインも異論はない。
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