1-2

2/3
前へ
/200ページ
次へ
「遅刻だ」 「そうだったか?」 ウィルがカインに言った言葉と同じセリフを投げると、彼はまったく悪びれもせずに流して室内へ足を踏み入れた。ウィルが小さく溜息するのが聞こえる。 「カイン、彼はロイ・ファルコナー。本日からパートナーとして組んでもらう」 「ファルコナー?」 「また新人かよ」 「新人じゃない。彼は他チームからの異動だ」 ウィルの返答を聞いたロイの周辺が僅かにぴりついた気がした。呑気にアイスを舐めているだけだが、全身に向けられるじっとりとした瞳は隙がない。 その視線も不愉快だが、カインにはそれよりも引っかかることがあった。 「ファルコナーって、あのロイ・ファルコナーか?」 「なんだ俺のファンか? あとでサインやるよ」 「遠慮する」 詮無い返答にロイは肩を竦めた。 ロイ・ファルコナーといえば有名人だ。中途入社のカインよりもいくつか年下のはずだがすでに十年以上のベテラン。と言うのもあるが彼が有名なのはそれが理由ではない。 「お前、無能力者なんだろ?」 超能力――いわゆる念力や予知夢。そのような人間の人智を超える現象が、夢物語を抜け出し当たり前になったのは今から四十年ほど前になる。当然と言っても現在、超能力を持つ人間は人口の三割と言われている。 地上に異能力が発現して数年後、能力者専門の部署が設立された。 カインたちが所属する「異能力犯罪捜査局」、通称"ESPI"はその一つで、その名の通り異能力者による犯罪や事件に対処する部署だ。 新しく制定された法により、公共の場での能力発動は制限されているが、その特性から手荒なことはある程度認められており、捜査官は個々の能力発動も認められる。能力者を相手するため、現場に出る捜査官はそのほとんどが何かしらの能力を持っている。ほとんどは。 「じゃねえ。だ」 ロイは悲し気に眉根を寄せて見せたが、傷ついているとは思えない。カインはくるりとウィルへ向く。 「どうして俺と彼をパートナーに?」 「話が終わったんなら帰るぞ。こう見えて忙しいんでな」
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加