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ひらひらと手を振りながらマイペースに部屋を出ていくロイをウィルは引き止めなかった。今に始まったことではないのだろう。扉が完全に閉まりきるのを見届けて、ウィルはやっとカインへ顔を向けた。
「不満か?」
間髪入れずに問われて低く唸る。渋々呟いた。
「不満と言うか……」
「能力を持たない奴だと思ってなめてると痛い目見るぞ」
濁した語尾を引き取ってウィルはあっさり指摘してくる。
「そういうつもりはないですけど……」
ロイの噂は別の班にいたカインの耳にも届いていた。
ESPIで働く人間は大きく三種類に分かれる。一つは現場に出て、直接能力者たちと相対する捜査官。カインやロイはこれに該当する。
現場には出ずに指令室などから無線で捜査官をバックアップする情報捜査官。現場の捜査官とは違い体力試験はなく、能力者、非能力者どちらも所属するが、非能力者のほうが多い。
そしてウィルのように複数人の捜査官、情報官のチームを管理する指揮官。まだ発足して間もない部署と言うこともあり、指揮官には元軍人や元警察など、外部の部隊出身が多い。ウィルは現場経験のある純粋なESPI出身の数少ない指揮官の一人だと聞いている。
現場捜査官は基本的に能力者だ。必須条件とされているわけではないが、非能力者が応募することはまれだ。仮に応募してきても本格的に捜査官になる前の訓練で脱落していく。
そんな狭き門で、ロイは三千人が所属するエルスオーク市支局の現場捜査官の中で現在唯一の非能力者。能力を使用してさえ突破が難しいとされる体力試験を一発で合格し、当局では五本の指に入るという話も聞く。
噂によれば能力者を嫌悪しているとも。
カインは半信半疑だった。一つは非能力者であることが。そしてもしそれが本当ならば、トップファイブは過言だろうと。
その時ウィルの着信音が鳴り響き、カインの思考を遮る。短いやり取りをして顔を上げたウィルを見て、カインは身を引き締める。
「出動要請だ。ちょうどいい、まずは二人で行ってこい」
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