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だが次の言葉を発する前に、カインはその場を離れる必要があった。対象の背後に鎮座していたサッカーゴールがふわっと浮き上がったかと思うと、カインめがけて豪速で飛んできたからだ。 すんでのところで身を転がしてそれを避ける。そのままの勢いでぶつかった倉庫の壁が大破し、野次馬の悲鳴が上がる。 「さっさと安全な場所へ遠ざけろ!」 捲し立てるとロイは顔をしかめていた。おそらくゴールが砕ける音と悲鳴で声が届かなかったのだろうが、彼はそのままゆっくりとこちらに向かってくる。 ジェスチャーでそれを制して戻れと告げると中指を立てられた。 「どいつもこいつも俺に仕事押し付けやがって! 子どもの身長が伸びないのをどうして教師が責められる?」 低く呻くような声に意識を戻す。 「自我はあるが宥めるのは無理か」 暴走には二パターンある。本人の自我が残っているか否か。 自我が残っていると少しほっとする。本人の意志ではないためパニックになっていることが多いが、すでに自我まで取り込まれて狂乱状態の場合、能力の暴走自体を止めることができたとしても、その後自我が戻ることは格段に低い。 独り言ちると、カインは片手をあげた。彼の指先からパチっと白く稲妻が弾ける。 ロイと違い、カインはもちろん能力者だ。それも一億ボルト以上の電気を操れる高能力者。 上げた右手をひゅっと前方へ振ると、電気の帯が対象めがけて駆ける。まともに当たれば意識は飛ぶだろうが、そう簡単ではない。 相手は自分の周りに浮いていたものを盾にして電撃を遮断した。カインは続けてその盾を回り込むように電撃を放つが、器用に空中で移動させてあっさり阻まれる。 暴走と言っても、防衛本能は働くようで止めるのは容易ではない。自我が残っていなければ尚更だ。
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