時よ止まれ。

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今日も変わらず寒い朝。ぼーっとしながら本に目を落とす。 もうすぐこの物語も終わってしまう。新しい本を頼まないと。そんなことを考えながらあくびをする。 また葉が1枚落ちていく。 物語によくある主人公が病気設定。まさに私と同じ。 病院に閉じ込められ動けないまま。勝手に日が経つのを感じながら生きている。 少し冷えるからちゃんと布団かぶって寝ないとな。そんなこと考えて深く潜った。 気温は8度。朝は冷える。昼になるとちょうどいい温度になるから私は昼が好きだった。 カラカラと外では看護師の荷台を動かす音だけが聞こえてくる。 ぴっぴっ。心電図の音は嫌い。小さい頃にピーッと長い音を聞いてしまったことがある。それがトラウマになり誰かが命を落とす。その恐怖に怯えていた。 日曜日。 高校に入る前の私は誰も見舞いになんてこないから曜日なんてどうでもよかった。今日は学校がない日。工藤くんもきっと来ない。 休みの日は本当に暇だ。 ゆっくり立ち上がって小児科ルームへ行く。 「あら、長谷川さん。おはよう。」 看護師の田中さん。小児科の担当。私も昔お世話になっていた。 「おはようございます。今日はくみちゃんは?」 「もうおきてまってるわよ。ほら。」 田中さんが首で指示した。その先に目をやると1人の小さな女の子がいた。地べたに座り絵本を読んでいる。 「くーみちゃん。」 後ろからそっと声をかけるとびくりとした小さい背中を見せた。顔を見るなりぱあっと笑顔に変わり、お姉ちゃんだっ!そう言って抱きついてきた。 「今日も絵本?」 「うん!早くお姉ちゃんみたいになりたくて!」 くみちゃんは私が入院したてのとき鳴り響く心音の隣でそっと立っていた。 小児科。小さい子の命が沢山集まっている。最後まで生きようとした証が残る場所。 くみちゃんは泣きわめく様子も中ただ友達の頭を撫でるので精一杯だった。 親御さんが来て連れていかれたあと急に糸が切れたように座り泣き出した。 私はその様子を見つめることしか出来なかった。 看護師が必死に泣くのを止めようとしていた。人形を使ってみたり、飴玉をあげてみたり。それでも泣き止まなかった。 私はそっと近寄り話しかけた。特に意味なんてなかった。ただ。体が勝手に動いてしまっていた。 「こんにちは。お友達のことずっと見守っていてあげたんだよね。強い子だね」 そういってさっきのこと同じようにくみちゃんの頭を撫でた。何回も何回も。 「さっきの子にもこうやって頭を撫でてあげたんだよね。きっと安心してお引越しできたと思うよ。」 「お引越し?」 「うん。お引越し。あの子にはお手紙が来てて、おそらの国へ引っ越すよー。って天使から。だから仕方なく、天使になりに行ったんだよ。凄いよね。」 「うん!すごい!くみも早く天使になりたい!」 「ダメだよー。天使になれるのは必死に生きて。生き抜いた後に天使さんが選んでくれるの。だから今を必死に生きて。じゃあいつかお手紙届くの。」 「うん!頑張る!」 さっきまで泣いてたのが嘘のように笑顔に変わった。 小さな顔いっぱいに口が広がる。 「よし、泣き止んだね。いい子だねー。」 看護師はその様子を唖然とみていた。 「あ、あのありがとうございました。」 「いえ、子供が好きなので。」 そう言って立ち去ろうとした時病院服を掴まれた。 「お姉ちゃんもう行っちゃうの?」 くみちゃんの悲しそうな目。それがすごく辛くてもう少しいることにした。 「ううん。もう少しいるよ」 そう言ったらまた笑いこっちこっち。と手を引かれた。
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