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1.鍵
2075年 柴野美実
父の部屋、鍵のかかった棚に仕舞われていたのは数々の日記帳だった。日記なんかつけていたのかと意外に思いながら手に取り、間違いに気づく。
これは、母の日記だ。
母がこれを書いているのを見たことがある。少しだけページをめくり、それが勘違いじゃないことを確信する。
母が亡くなったのは四十年近く前なのに、父は大事にとっていたのか。
呆れてひとつため息。
父は正直引くほど母を愛していた。だから父が母の日記を取っていたことにどこか納得感はある。
まあ、私なら捨てて欲しいけれども。私が死んだら、日記なんて。
とりあえず今度こそ、処分だなと決意する。父も亡くなった今、この家も引き払うことになる。荷物は少なくしないと。
母はマメだったようで、日記は子供の頃の日付から亡くなる直前まで続いていたようだった。棚から引っ張り出したそれらが、まあまあの高さになる。
しかし、日記ってどうやって処分したものか。
最後の一冊を取り出すと、さらに奥に小さな箱が入っていた。お菓子でも入っていたような、少ししっかりした紙の箱。
開けてみると、いくつかの写真が入っていた。デジカメかなにかで撮った写真を印刷したもののようだ。
アナログ派でマメな母は、写真を印刷してアルバムにしてくれていた。あれはとりあえず今の家に持っていく予定だ。
それにしても、アルバムにまとめていない写真があるなんて珍しい。
そう思って中の写真をいくつか見ていく。
「……あれ?」
両親の結婚式や幼い私と海に行った写真などが入っているが……隣に写っている二人は誰だろうか? というか、
「変わってない……?」
その男女二人は年月が経っても外見が変わっていないように見えた。ずっと二十代の青年と十代の少女に見える。あまり見た目が変わらない人もいるが、それにしたって……。
箱の奥に入っていたのは、プリクラ。名前が書いていないとわからないぐらい若い母と、むしろ幼い父。そこにもこの二人は同じ顔で写ってる。
「……一体、なんなの?」
※※
これは私と両親のいくつかの思い出話と、私が知らない両親の話。
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