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第1話 貰ったスキルが超使えねぇ件
「はあ……」
俺は大きな溜息を吐いた。
もちろん安堵の溜息だ。
俺はつい先ほど息を引き取った。
享年80歳、一生独身を貫いた。
友達もいない、当然彼女も居たためしがない、親との仲も最悪だった。
特に何をした訳でも言った訳でもないのに何故か人に嫌われた、初対面の人にすら。
それでも人の環の中に居たかった俺は例え不当な扱いを受けようとも人との関わり合いを持とうとした。
しかし何故だか気づいたらいつも一人だった。
限界だった、いつの頃からか諦めが勝り自ら進んで人との関わり合いを断つようになっていった。
一人でいると心が安らぐ。
そうして俺は孤独な人生を送り続け、ひっそりと自宅で孤独死を遂げたのだ。
死ぬ時は誰しも一人だ。
生前からそうしてきた俺に淋しさや恐怖といった感情は生じない。
恐らくこの死後の世界と思われる暗黒の空間は俺にとっては寧ろ快適な居心地の良い場所であった。
死後の世界がどうなっているのかは分からない。
天国や地獄が存在するのかどうかも誰にも分からない。
よく死んでから蘇ったという人がお花畑を見ただの、死んだおばあちゃんがこっちに来るなと追い返しただのと死後の世界を垣間見た様な事を言うが、それは所詮意識を失っていた間に見た夢か幻であろう。
今俺が漂っている暗黒空間は本当に何もない。
お花畑も無ければ金棒を持った鬼も居ない。
もしかしたら何も起こらずこのまま意識を保ったまま無限にここに漂い続けるのかもしれない。
しかしそれも悪くないかもしれない。
生きて人々に嫌われ続ける苦痛を味わわないで済むなら。
孤独には慣れっこだからな。
「それがそうもいかないんですよね」
誰だ? 今女の声がしたぞ?
「はい、私は女神シルビア、初めまして狭間臣郎さん」
おっとりとした女神シルビアと名乗る少女の挨拶の直後、途端に闇が晴れていく。
澄み渡る青い空に浮かぶ白い雲、俺が立っている地面も緑の芝生に覆われており、そこかしこには色とりどりの美しい花が咲き乱れている。
なんだやっぱりお花畑はあの世に存在するんだな。
「うふふふっ、この場所がそう見えるのでしたらそれはあなたが心の中に望んだ景色という事になりますね」
鈴を転がすような美しい声を頼りに辺りを見回す。
振り向くと大きな切り株の上に腰掛け足を組んでいる少女が居た。
美しいブロンドの長い髪、宝石の様な紅く大きな瞳、少し幼い感じはするものの顔立ちは整い人ならざる者といった雰囲気を感じる。
そして神話で見るような白い布を身体に巻きつけ衣服としていた。
あんたが女神様か?
「そうですよ狭間臣郎さん、ふふふっ、何だか『様を見ろ』と聞こえてしまいますね」
口元を手で隠しクスクスと含み笑いをする自称女神様。
止めてくれないか、生前それでどれだけ周りから揶揄われた事か。
「ご免なさいね、改めまして私は女神シルビア、あなたの今後を導く者」
今後を導く? おかしな事を言う、俺は死んでそれでお終いじゃないのか?
「それが私は、いえ私たちはあなたに謝罪をしなければならないのですよ」
謝罪? 何の事だ?
「あなた、生前は物凄く人に嫌われていたでしょう?」
ああ、その通りだ、人どころか犬や猫、カラスにまで嫌われる始末さ。
「その事ですが、あなたのその全ての生き物に嫌われる境遇は私達神のミスなんです、本当にごめんなさい」
はぁ? それはどういう事だ?
「あなたが前世に人として生を受ける時、あなたには『孤独』というユニークスキルが誤って付加されてしまったのです……そのスキルは本人が何も行動を起こさなくても漏れなく周りの生き物に嫌われるといったもので本人がどれだけあがこうともその評価が覆ることはありません」
ばっ、馬鹿野郎!! 何て事してくれたんだ!! そのお陰で俺の人生は散々だったんだぞ!!
まさか死んでから俺が前世で嫌われ続けた理由が明らかになるとはな。
しかもそれが神の仕業だったとは、通りで何をやっても無駄に終わった訳だ。
で、今更それをどうしてくれるって言うんだ? 女神様よ。
「当然謝罪をさせて頂きます」
ん? じゃあ月並みな所で何でもいう事を聞いてくれるとか?
「申し訳ないのですがそれは出来ません」
何でだよ!! そっちに非があるって認めたよな!?
「はい、もちろん、ですが何でもは聞けません、既に謝罪の内容は我々で決めてきましたから」
女神シルビアは小首を傾げ優しそうに微笑む。
その可愛らしさに胸が高鳴り顔が紅潮しているのが分かる。
可愛いじゃないか、人に嫌われ続けたせいで人との接触を断って来た俺には美少女のスマイルは眩しすぎる。
きっとこの女神にはちょろい奴と思われているんだろうよ。
まあいい、じゃあその謝罪の内容とは?
「あなたには転生して異世界へ行ってもらいます」
転生?
「はい、容姿はサービスで十代後半当時のあなたの身体で、記憶も持ったままです」
生き返れると解釈していいのか?
「そうですね、ただ元居た世界ではないという事です、もちろんその嫌われスキルは取り除いて差し上げますけど」
当然だ、それについての謝罪なのだから。
「代わりにあなたには『お一人様』というユニークスキルが付与されます」
お一人様だと? 馬鹿にしてるのか? 俺の前世がそのおかしなスキルのせいで散々だったって話したよな?
「『孤独』と『お一人様』はまったく違いますよ、『孤独』は周囲の悪意を一身に集めるだけ集めて何のメリットもありませんが『お一人様』違います」
どう違うって言うんだ?
「『お一人様』は何事でも一人で行動する際に最高のパフォーマンスを発揮する様になる謂わばバフのような効果があるのです」
バフだぁ? 何だそれは。
「臣郎さんはゲームをやった事は無いのですか? バフとは能力を引き上げる効果を指すゲームでよく使われる用語ですよ」
そうなのか? さすがに最近の事には疎いんでね、世代的にもテレビゲームなんて無かったしな。
それはそうと何で女神であるあんたが人間界のゲームに詳しいんだよ。
「それは、まぁ、ねぇ?」
ねぇ? じゃねぇ!!
シルビアは頬を染めている、恥ずかしがっているのか?
さてはあんた、人間界に降りてゲームで遊んでるだろう?
「さて、何の事でしょう、オホホホホホ」
おいおい、目が泳いでいるぞ。
まあいいさ、それくらいの優遇措置はしてもらうに越した事は無い。
「ただ一つ注意点があります」
何だ?
「このスキル、言った通り一人で行動している時のみ有効なスキルでして、誰かと一緒に行動していると発揮されないのです」
まあ今までの説明で何となく察しは付いてたよ。
「でもそれだけでは無くて、誰かに好意を持たれると例えその後一人で行動してもバフの数値が大幅に下がるんです、しかもそれは一度低下すると回復しませんし好意を持つ人が増えれば増える程、その人が持つ好感度が上がれば上がるほど数値は下がっていきます」
何だって? それじゃあ俺は転生先の世界でも一人ぼっちで過ごせと言うのか?
「いいえ、好きにして構わないのですよ、今言った事を踏まえてさえくれれば、あなたはもう嫌われ者ではありません、普通に人との関わりを持ってくださって結構です」
何だよ、使えない能力を付加しやがって、そんな能力別に無くなってもいいや。
「臣郎さんがそう思われるならそれで結構ですよ」
ああ、勝手にさせてもらうぜ。
自分らが与えた能力に駄目出しをされたというのに相変わらずシルビアは微笑んでいる。
何だかこっちが後ろめたいぞ。
「チュートリアルが長いとプレイヤーに嫌われますからね、この辺にして」
プレイヤーって、この女神、相当ゲームにかぶれていると見える。
「では行ってらっしゃい、剣と魔法の世界【ブリガンティア】へ……」
そう言いながらシルビアが手を振ると俺の視界がぐにゃりと歪む。
乗り物酔いに似た頭痛と眩暈を感じそのまま俺の意識は遠のいていった。
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