4-15 君を待つ宇宙

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 流斗君と別れた私は、センターの売店で、宇宙食や人工衛星の小さな模型、それに星座をプリントしたハンカチを買う。もう一度、見学スペースをじっくり回った。  が、帰りも六時間かかる。明日は仕事だから、そうゆっくりしていられない。  昨日と同じ高速道路を走る。途中のサービスエリアで、職場、そして母の家族へのお土産に、ご当地ふりかけや、饅頭、スフレなど買い込んだ。  せっかくなのでここも写真を撮った。  サービスエリアの事務室を思い切って訪ねてみる。大学のホームページで紹介したいと伝えたら、やはり本社の担当に聞いてほしい、とのこと。  戻ったら、色々やることある。彼に会えなくて寂しい、なんて泣いてる場合じゃない。  宇関についたときは、日はすっかり落ちていた。  その夜、スマホに入った着信は……母からだ。まだ宇関にいるそうだ。  母の泊まるホテル一階のレストランで会った。  サービスエリアで買ったお菓子と、宇宙センターで買った宇宙食を手渡した。  途端に母の目に涙が浮かぶ。 「やめてください。そんな高いものじゃありません」 「宇関から出られたのね」  母が泣いたのは、土産物そのものより、私が遠く離れた場所に行けたことなのだろうか。 「朝河さんには会えた?」  宇宙食のお土産を見つめて言われた。 「え、あ、まあ」  昨夜の彼を思い出し、ついうつむいてしまう。 「仲直りしたみたいね。でも、不倫は早めに撤退した方がいいわよ」 「不倫? 何言ってるんです?」 「朝河さん、若い子と結婚したんじゃなかったの?」 「あ、それ……勘違いだった……」  母の顔をまともに見られない。 「そうよ。あれだけ、なこを心配してくれる人が、他の人と結婚するわけないもの」 「あの……ママと朝河さんって前から知り合いだったの?」  祭りの時、彼らは初対面だったが、親し気に話していた。 「なこの誕生日のころかな? あなたのお友だちと名乗る若い男性から、電話がかかってきたの。私が送ったプレゼントの伝票を見たって。念のために検索したら……若いのにすごい先生なのね。びっくりしたわ」  あの日。  母からのプレゼントが遅れて到着し、流斗君にその場を見られ……その後私たちは、初めて結ばれた。でも、彼が新しいパソコンに乙女ゲームを入れたりして、大騒ぎになって、一方的に絶交したんだっけ。  いろいろありすぎて、今から思うと笑ってしまう一日だった。 「そのあと電話が来たのは、二月(ふたつき)前かな。しばらくあなたのそばにいられないから、見ていてほしいって……それなのに私は勇気がなくて……あなたからプレゼントが返されてようやく気がついたの」  母が震えている。  流斗君は、私の異常な様子から、プレゼントの送り主がどういう人間か、気になった。衛星打ち上げに専念したくても、私のことが気になって、母に託したんだ。 「ごめんなさい! 私が悪いのに、あなたに拒まれるのが辛くて、儀式さえ阻止できればいいって……」  テーブルに伏せる母を、私は静かに見下ろす。  いいよママ。気にしないでね。私はもうママを恨んでないから……そんなことばをかけて、この人を楽にしてあげる気にはなれなかった。  ひどいよママ。私を捨ててリア充したあなたを、絶対許さないから……そんな風に言って、自分を惨めに落としたくもなかった。 「もう早く帰らないと。受験生二人が待ってるよ」  今の私は、そう答えるのが精いっぱいだ。  私たちはレストランを後にした。  ホテルのロビーで去ろうとする私を母が引き留め、抱き着いてきた。  母が私の肩に頭を乗せしがみついている。何とも奇妙な心地だ。  でも、不思議と不快ではない。 「さよなら、お元気で」  私は笑顔で告げて、ホテルを後にした。  空を見渡す。まだ月は出ていない。今は下弦の月だ。  私はこれから月が出るだろう東を向いた。 「さよなら、お父さん」  父には領主の末裔としての誇りがあった。が、領主であり続ける力はなく、事業を破綻させた。表向きはいい人だったが、幼い娘を売り飛ばすような男だった。  私は笑った。泣きながら笑った。でも、また何か歌いだしたくなるのだけは抑えた。
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