飛ぶ

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飛ぶ

 放課後、暗くなり始めた屋上で、君の変わった色の髪の毛が風に揺れる。七色が、残り僅かな夕陽に煌めく。 「お別れだね」  震えないように注意して出した声は、か細く空中に霧散する。こんなときくらい、笑っていたいのに。拳をぎゅっと握りしめた私とは対照的に、君はいつものように笑う。見慣れた表情なのに、まるで初めて見るような気がする。 「うん、お別れだ。今日までありがとう。楽しかった」  楽しかった、じゃ、ないよ。どうして私を置いていくのさ。  そんなことを言ってやりたいけれど、言わない。軽々とフェンスを乗り越えた君の顔を網越しに見たとき、いつもの笑顔ではなかったことに、ようやく気がついた。笑顔に見えるけれど、あれは泣き顔だ。本当に、初めて見る表情だったのだ。 「それじゃ……」  さよなら、と言いながら、君が落下する。私は生まれて初めて本気の全力疾走をして、フェンスを乗り越える。勢い余って空中に飛び上がった私を、君が目を丸くして見て、叫ぶ。 「ええ!?」  君を回収しに来ていた銀色の船体が、私のことも一緒にキャッチする。船体のアームの中で君のふわふわの髪の毛に埋もれているうちに、なんだか楽しくなってくる。住み慣れた街が、小さくなってゆく。 「嘘でしょ、宇宙までついてくる気」  君が、またも初めて見る表情で私を見る。それが嬉しくて、笑いが止まらないから答えられない。やがて君も吹き出して、私たちは地球を離れる。君の生まれた星へ、飛ぶ。 novelber 2日目「屋上」
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