美しいもの

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美しいもの

 氷の中に、美しいものを閉じ込める。色とりどりの季節の花、果物、ミントの葉とともに。製氷皿に水を張るときから涼やかな完成品を思い浮かべて、自然と微笑んでしまう。  できたら、何に入れよう。アイスティーでもいいし、アイスコーヒーでもいい。ワインクーラーに、水とともに入れても綺麗だろう。別に、飲み物に入れなくてもいい。皿の上に飾って溶けるまで眺めていてもいいのだし、水自体に味をつけておけば、アイスのように食べることもできる。  食べる。素敵な思いつきだ。でも、惜しい。火を通していない。そもそも火を通してしまったら、その美しさは損なわれてしまうに違いない。美しくないものを氷に閉じ込めても、仕方ない。  結局、玄関の広間に飾っておくことにした。少し溶けかけてきたら冷凍庫にしまい直して、別のものを置く。細かなパーツに分かれた、美しいものを並べる。 「あら、素敵なオブジェね。中に石膏像でも入っているの?」  客人が口々にそんなことを言い、中のパーツをじっくり眺めて帰っていく。洒落た、美しい置物と化した君の目が、氷の奥からこちらを見つめている。 novelmber 「氷」
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