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清廉な灰かぶり
かぼちゃの馬車になんて乗りたくない、と彼女は言い、親切な魔女は耳を疑った。ドレスも靴もメイクアップもしてやったと言うのに、では舞踏会へという段になって、そんなことを言い始めるとは。
「かぼちゃは乗り物じゃありませんわ。それに、ネズミを馬に変えるなんて。私の勝手な都合で、かぼちゃやネズミを別のものに仕立て上げて、しかも私のために働かせるなんて、したくありません」
魔女はうろたえた。今まで相手にしてきた人間とは全く違う反応に、どう対応すべきか分からなかった。
「でも、舞踏会に行きたいんじゃないのかい。馬車も馬も、ないと困るだろう」
「それはもちろん、行きとうございました。でも、まさかそんな自分勝手なやり方だとは思っていなかったんですもの」
魔女は、頭を殴られた気がした。自分の浅はかさを後悔した。
「わ、分かったよ。私の考えが浅かった」
「よかったですわ。では、このドレスもお化粧も、もう必要ありませんから、お返しします。お気持ちだけ受け取っておきますわ」
彼女はさっと踵を返し、家に入ってしまった。魔女は自らのこれまでを反省するため、当てのない旅に出た。かぼちゃとネズミはアイデンティティの揺らぎに直面することなく、平穏無事に過ごした。
王子はその夜、彼女とはまったく別の女性と劇的な恋に落ち、自らの地位も国も捨てて出奔したらしい。彼女はそんな噂を風に聞き、粋な男もいるもんねと思った。
novelber 3日目「かぼちゃ」
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