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面が割れる
長年追いかけてきた怪盗を、遂に追い詰めた。高い時計塔の屋根に、俺と怪盗の二人きり。塔の周辺は警察が取り囲み、特別にヘリまで要請したものだから、地上にも空にも、逃げ場はない。
「観念してお縄につけ!」
俺の言葉に、怪盗は涼しげな笑みを返す。
「この私を捕まえられると?」
「ああ、今日こそはな」
じりじり近寄る俺を、怪盗は面白そうに眺めている。
「鬼ごっこで一度も私を捕まえられなかった、君が?」
は? と口を開けた俺の目に飛び込んできたのは、よく知る幼馴染の顔だった。怪盗が、変装を剥いだのだ。
「な、……な、なんで」
二の句を継げずにいる俺を鼻で笑い、怪盗は身を翻して、屋根からヒラリと飛び降りた。慌てて追いかけたが、とき既に遅し。その細身は、影すら見当たらない。くそ。あんな変装で虚をつかれ、みすみす取り逃してしまうとは情けない。今度は母親に化けてきたとしても、決して騙されはしないぞ。
ってことがあったんだよ、と、刑事をやっている幼馴染の声が電話越しに言った。貴重な宝石を金庫に仕舞い入れながら、私はそれに笑って応える。
「私に化けるなんて、不逞な怪盗だな」
そうだろ、あまりにビックリしたもんだから、と幼馴染は言う。
「まあ、頑張れよ。応援してる」
素直な礼の言葉の後に、電話が切れる。この調子では、彼が私を捕まえる日は、まだ遠いだろう。今度、彼の実家を訪れなくてはな。
novelmber 「面」
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