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犯行現場
部屋が荒らされていた。仕事から疲れて帰宅したら、ひとり暮らしの室内が、しっちゃかめっちゃかだった。
鉢植えは倒され土が散乱し、本棚の本も羽根を広げた蝶のごときありさま。食器棚から調味料入れ、ひいては調味料がぶちまけられ、冷蔵庫から牛乳が滴り落ちている。カーペットが裏返され、固定電話の受話器が定位置から外れて転がっている。おまけにテレビまでつけっぱなしだ。
この状況を引き起こした犯人の目星は、もうついている。金品の類が盗まれていないので、恐らく、私の見当通りだろう。
初めの驚きはとうに失せ、私は、ゆっくりとテレビの電源を消した。
「……犯人は、この室内にいる」
一度、言ってみたかった台詞だ。思わずにやにやしてしまうのを抑えながら、物音がしたクローゼットの扉を、思い切り開く。
「にゃあー」
勢いよく飛び出してきた愛猫が、私の肩に乗る。部屋を荒らした証拠が身体中に付いているが、いつも何かに不満そうに見える、その顔がやっぱり愛らしいから、私はすぐに許してやる。
めちゃくちゃな室内で、思い切り、彼のモフモフを愛でた。
novelmber 「室内」
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