無人地帯

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無人地帯

 人が生きていてはいけない地帯というものがある。と言うより、人はその地帯では生きていられないのだ。別に、毒ガスが吹いているわけでも、不毛の地というわけでもない。それはあまりにも様々な場所に、他の場所と変わりないように存在する。  例えば、子どもが親に連れられてやって来る公園のど真ん中が、「そう」だったりする。また、車道の二車線にまたがる一部分が「そう」であることもある。  避けて生活することなど、まずできないほどに「それ」はそこらじゅうに溢れている。そういう場所には、人間のイラスト上に大きなバツ印を配した、目立つ標識が立てられる。標識を立てられない場所、例えば室内だとかには、うっかり踏み入らないように、囲いを設けていたりする。室内で起きる不幸な事故の八割は、小さな子どもやご老人が、誤って「そこ」に入ってしまうことで起きると言われる。  と、ここまでは前提の話。世界の常識の、確認だ。今、私が話題にしたいのは、目の前で起きている不可思議な事態。人間が生きていられない無人地帯にいながら、クラスメートがなぜだか無事に生きている、という事態だ。  つまずいた拍子に標識を踏み越えた彼女を助けようと、腕を伸ばした教師は側で死んでいる。彼女は困り顔で私を見ている。  人間なら必ず死んでしまうその地帯で、生きていられるということは。  思わず後退りした私の前でクラスメートの顔の皮がめくれ、中から何かが、ゆっくりと。 novelmber 「無人」
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