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切長の目が、僕をじっと見る。
薄青いノースリーブのワンピースは、熱風にあおられて、裾をばたつかせた。みなもちゃんは右手でスカート、左手で麦わら帽子を押さえる。
ぎらぎらした日差しの下、白い腕に浮かぶ、治りかけのあざが痛々しい。
「ワンピース、似合ってるね」
「そうでしょ。だってこれが着てみたくて、崇士くんに頼んだんだもの」
「え……?」
みなもちゃんの目は、いつも僕を落ち着かなくさせる。
そして、理解した。
ああ。
この目だったんだ。
この目が、おじさんを狂わせて、手をあげさせたんだ。
「ありがとう、崇士くん」
みなもちゃんが手を放すと、スカートはふわりと円形に広がる。
白くて細い足も露わになる。
みなもちゃんは、ふふふっと口元をゆるませた。
彼女の肩越しの空は青い。
タチアオイの最後の花が、茎のてっぺんに咲いている。
赤く薄い花びらは、この世の罪など知る由もなく、上を向き風に揺れていた。
白い大きな入道雲が、午後の陽を受けて光っている。
どこからか、遠雷が聞こえた。
天気は崩れ始めていた。
僕の人生は既に、足元から崩れ始めている。
完
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