11人が本棚に入れています
本棚に追加
まさに不良×平凡
下駄箱に入る手紙。西日が差し込む校舎裏。遠くに聞こえる野球部の掛け声。そして向かい合う2人の若者…
口火を切ったのは、着崩した制服、明るい茶色に髪を染めた大柄な少年の方だった。
「俺、お前の事が好きだ…」
「…」
「つ、付き合って、くれ」
お付き合いを申し込まれた小柄な少年の体がひくりと揺れる。
黒髪で優しげな目元をした少年はちら、と校舎の角から覗く金髪と赤髪に目を止めた。おそらく目の前の彼の仲間達だろう。そこまで解ってしまうと、また泣きそうになる自分をぐっとこらえた。
男子校においてまるで七不思議のようにその手の噂は絶えないし、事実少年も数組の恋人達の存在を知っている。
だが、男ばかりの高校であるからこそ、こういう冗談がまかり通るのだ。
「返事は?」
優しげに聞こえるが、その目が声音を裏切っている。生来の目付きの悪さだけではない、底冷えするような光を放ち、じぃっと小柄な少年を見下ろしていた。目の端についた絆創膏や口元の青アザは昨日の隣校との喧嘩、とやらだろうか。逆立てた茶髪と大きな身体に相まって、あり得ない程の威圧感を醸し出している。
イタズラだ。それも、かなり悪質な。そう結論づけた少年は、にわかに自分の体が震えるのを感じた。震えてる、と感じる前に小さく息を吸い込む。そして言う。
「あんたなんかと死んでも付き合わない!この地球にあんたと俺の2人しかいなくても好意の欠片も寄せない!あんたと付き合わないと人類が絶滅するとしても付き合わない!嫌だ、絶対嫌だ!告白する人間なんか絶滅しろー!!!」
残るのは木霊する叫び。一瞬の静寂の後、校舎の端から聞こえた金髪と赤髪の爆発するような笑い声。遠くからは野球部の掛け声。
そして、少年の目の前から微かに、だが確かに聞こえる、プチンと切れるような血管の音だけだった。
…のちに私立BL高校で伝説となって語り継がれる、不良×平凡カップルの馴れ初めである。
最初のコメントを投稿しよう!