来世へと続く薬

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来世へと続く薬

○1闘技場 観客席で囲まれた、円形闘技場。 テオとアルファン、フィールドで向き合って立つ。 テオは、手に持った杖をアルファンに突きつける。 テオ「今日こそ、俺が勝ち越してやる」 応えるように、長剣を構えるアルファン。 アルファン「学園に入学してから、99戦目。今日は、引き分けなんてまっぴらごめんだぞ」 テオ「俺も同感だぜ! ……戦闘開始だ!」 テオ、アルファンの方に駆け出し、杖を大きく振りだす。 テオ「行け、炎召喚! ファイアーレイン」 空中に魔法陣が現われ、雨のような炎がアルファンへ襲い掛かる。降り注ぐ炎をかいくぐるアルファン。 アルファン「八ッ!」 アルファンが剣を振りかぶると、空中に防御壁が現われる。防御壁に当たってはじけ飛ぶ炎。 テオ「首席のアルファン君には、基本ってとこか」 アルファン「昨日と同じ手は通用しない」 テオ「そうじゃなくちゃな。これでどうだ。アイスロック!」 さらに、テオが杖を一振りすると、空中に描かれた魔法陣からアルファンに氷の塊が飛び出していく。 アルファン「相変わらず、正面勝負だな」 アルファン、氷塊を剣で切り捨てる。氷塊が砕け、フィールドに砂ぼこりが舞う。テオの視界から消えるアルファン。 テオ「どこいった?!」 砂ぼこりに目を細め、闘技場を見回すテオ。アルファンの姿はない。 テオ「!」 その瞬間、テオの間合いに踏み込む影。テオの視界に、剣を構えるアルファンが現われる。 テオ「……っ! なんてな」 テオ、不敵な笑み。 アルファンの背後に拳ほどの小さな魔法陣。陣からゴムのような光が飛び出して来て、アルファンの身体を拘束する。 自由を奪われ、床に転がるアルファンの剣。 アルファン「くっ……」 テオ「やっほー。今日は俺の勝ち!」 テオ、勝利を確信し飛び跳ねて喜ぶ。 アルファンを拘束する魔法がはじけて消える。 アルファン、膝から地面に崩れ落ちる。傍には、剣が転がっている。 テオ「50勝49敗! 念願の俺の勝ち越しだな!」 テオ、アルファンを立たせようと手を差し出す。 アルファンの上げた瞳に光が宿る。アルファンが剣の刃を踏みつけると、刀が空中に舞い上がる。 テオ「へ?」 テオ、目の前に浮かんだ剣に、驚いて後退る。アルファン、隙を見逃さず、素早くテオの背後に回り込む。テオの首元に、小型のナイフを突きつけるアルファン。 テオ「!?」 アルファン「勝負はじっくり。相手が負けを認めるまでは終わりじゃないだろ」 テオ「くっ」 テオ、溜息。杖を地面に放る。 テオ「……もーう、わかったよ! 俺の負け」 審判学生「勝者アルファン!」 テオ「え?」 観客席から『かっこいいアルファン!』『やっぱ首席は違うわ』などと学生の歓声が上がる。観客席で大量の学生たちが見学している。 テオ「いつの間に(見学入ってたんだ)」 アルファン、突きつけたナイフを下ろし、握手の手を差し出す。 アルファン「今日も楽しかったな」 テオ「なっ! 喜ぶな。勝てるのも、今日だけだからな!」 アルファン、微笑。 アルファン「望むところだ」 テオ、頬を染めて、 テオ「っ。なあアルファン、残りの休憩時間……」 ギルの声「先輩!」 テオ「ん? ギルか……」 テオの背後に、男女の学生グループが目を輝かせて立っている。その中に後輩・ギルベルトの姿。 ギルベルト「はい! 俺と手合わせお願いします」 アルファン「しかたないな」 テオ「剣術部の後輩……」 アルファン「ああ、コイツの相手をしてやらないと。テオ、何か……」 テオ「大したことないから」 アルファン「? そうか」 ギルベルト「よろしくお願いします」 深々と礼をするギルベルト。 アルファン「よし」 アルファン、ギルベルトの頭に手を置く。 テオ「!?」 テオ、ギルベルトを撫でるアルファンの手を羨ましそうに見つめる。唇をかんで物を言うのをこらえるテオ。 テオ「……」 アルファンと学生のやりとりを横目に、闘技場を去る。 アルファン「テオ?」 ギルベルト、敵愾心を含んだ眼でテオを睨む。 ○2同・観客席 テオ、深いため息をついて、観戦席の壁に寄りかかる。 リスト「お疲れ」 リスト、テオに向かってひらひらと手を振っている。 テオ「ああ、リストも来たの……」 テオ、肩を落として、観客席に腰を下ろす。リストも隣に座る。 リスト「さすが剣術科の首席さまだなあ。魔法科優等生のお前と、全然引けを取らないね」 テオ「……なあ」 リスト「ん?」 テオ、歓声を上げる観客を指さす。 テオ、「いつから?」 リスト「始まった時から結構いたぞ。昼休みに闘技場来れば、アルファンに相手してもらえるって、噂が立ってるから」 テオ、拳を握って震える。 テオ「昼休みはな、俺とアルファンの腹ごなしの時間なんだよ。せっかく……」 リスト、テオの肩を抱えて慰める。テオに顔を近づけて、 リスト「分かってるって。デート邪魔すんなって言うんだろ?」 テオ「なっ!」 リスト「でもな、広い心を持てよ。モテる恋人持った奴の定めだよ。自分だけ特別扱いしてくれなくても我慢しなきゃ……ぐ」 テオ、リストの口を手で塞ぐ。 テオ「お、俺が寂しがってるみたいに言うな!」 リスト、テオの手から逃れて、 リスト「はいはい。寂しいでちゅね。俺が、話相手してあげますよー」 テオ「この野郎!」 アルファン「(笑う)ハハハ」 テオ、照れ隠しでリストの身体を揺する。 ○3同・闘技場 アルファン、ギルの剣を受けながら、横目でテオを伺う。ピクリと動く眉。 アルファン「……」 ○4校舎・実験室 テオ、実験機器を目の前に薬品を調合する。ふて腐れて薬品の入った試験官を高速で振る。 テオ「やっぱり、ココがおれの居場所か……」 テオの背後で、『ホント?』『詳しく教えて』等、ひそひそ話で盛り上がっている女子生徒2人。 テオ、視線で振り返る。 女子1「ロマンチック! 来世でも恋人と結ばれる魔法薬?」 女子1「ホントに作れるの?」 女子「出来るって。材料はね……」 テオ、聞き耳を立てて、試験管を振る手が止まる。 テオ、ハッと気づいて、試験管を振る、 テオМ「いやいや。恋愛関係の薬って効力は実証されてない。ただのおまじないだ。そう、ただの……」 テオ、試験官をじっと見つめる。 ○5学生寮・テオの部屋 ベッドやデスクが2つ配置されている。二人部屋。 デスクの前に座り、両手で顔を覆って震えるテオ。 テオ「恋人と来世でも結ばれる薬なんて、馬鹿らしいんだよ」 デスクに、液体の入ったガラスの小瓶。 扉が開く。通学用バックを手にリストが入ってくる。 リスト「ただいまー、遊びすぎてくったくった。今日の夕飯なんだっけ?」 テオ「ああ。もうそんな時間かよ」 リスト「なになに、テオも遊んでたの? って、なんだこれ」」 リスト、テオの後ろからのぞき込んで、ガラスの小瓶を手に取る。 リスト「薬の調合? 相変わらず実験マニア」 テオ「さわんな!」 テオ、リストの手から小瓶を素早く奪い返す。 リスト、きょとんと不思議そうな視線。はっと気が付く。 リスト「あああああ!」 テオ「おい。大声出すなよ!」 リスト「(にやける)薬の中身、当ててやろうか。 テオ「(驚いて)へ?」 リスト「……エロい薬だ?」 テオ「バカ! 何だよエロい薬って」 テオ、机をこぶしで叩く。 リスト「冗談だって。あれだろ? 最近、女子たちの間で噂になってる好きな奴と……」 テオ「もういいから! それ以上言うな」 テオ、頭を抱える。 リスト「ビンゴー!」 テオ「俺のこと女々しいと思ってんだろ?!」 テオ、リストの肩を掴んでゆする。楽しそうに笑うリスト。 リスト「けなげだねえ」 テオ「うるせー。作ってみただけだよ」 リスト「恋愛系の薬ってさ、ガセだろ?」 テオ「言い返せない」 リスト「でも、意外と聞くかもよそれ?」 テオ「はあ? なんで」 リスト「アルファンに飲ませたいんだろ? 協力してやろうか」 テオ「こんな怪しい薬、呑む訳ないだろ」 リスト「大丈夫っしょ。テオが作ったものなら毒でも飲みそうだし」 テオ「アイツのこと何だと思ってんの?」 リスト「せっかくなら、効果ある方にかけてみたいしねー」 テオ「……」 テオ、ガラスの小瓶を握り締める。 ○6学校・中庭 制服姿のテオがアルファンの前に立っている。機嫌が悪そうな憮然とした顔でテオを見下ろす。 テオ、ジュース入りのペットボトルを2本持っている。 テオの後ろでニコニコと機嫌よさそうに、2人を見守るリスト。 テオ「今日は、絶対勝つ!」 アルファン「なぜ、リストがいる?」 リスト「俺のことは気にしないで。2人で仲良くやってねー」 アルファン「……」 アルファン、眉を顰める。 テオ「44勝45敗。100戦目は負けられない。俺は、お前に勝つ方法を徹夜で考えた。その成果を見せる時だ……」 テオ、アルファンの前にペットボトルを突き出す。 テオ「今日は、ドリンク一気飲み勝負だー!!」 アルファン「一気飲み?」 リスト、テオの肩を組む。 リスト「(笑う)テオ、お前らしいぜ」 テオ「そうか?」 リスト「猪みたいで、小細工出来ないところがお前だよ」 テオ「褒めてるんだよな?」 リスト「もち」 アルファン、テオとリストに不機嫌なジト目を向ける。 テオ、アルファンの方に顔を向けて、 テオ「よーし、100戦目だぞ!」 アルファン「……断る」 テオ「え!?」 アルファン「勝負する気分じゃない」 テオ、焦って真っ青。 テオ「(リストに)まさか、バレた?」 リスト、悪戯っぽく肩をすくめる。 テオ「……っ」 テオ、焦って視線を泳がせて、 テオ「ま、まあやりたくないなら、仕方ないか……」 リスト、テオの肩に手を回す。 リスト「アルファンに振られたからって、落ち込むなよ」 テオ「落ち込まねえよ!」 テオの腕を掴む、アルファンの手。 テオが顔を上げると、無表情のアルファンが見下ろしている。 アルファン「部活の準備があるんだ。手伝ってくれ」 テオ「……いいけど」 リスト「(アルファンに)しかたない。手伝うかー」 アルファン「お前は結構」 リスト「ちぇー」 リスト、にやにやと悪い笑み。 テオ「?」 人工芝をかき分けて走ってるローファー。 ギルベルト「ちょっと待ったー!」 ギルベルト、必死の形相で走ってくる。 ギルベルト「その勝負、俺に任せてください!」 テオとリスト、立ちどまったギルベルトを呆気に取られて見る。 ギルベルト「アルファン先輩の決闘は剣術部の決闘。後輩の俺が代わりに受けて立ちます!」 テオ「え、勝負?」 リスト「あらあら」 テオ「いや。今日は試合しないし。やめとく」 テオ、ドリンクを後ろ手に隠す。 ギルベルト「逃げるんですか?」 テオ「はあ!?」 ギルベルト「魔法科の奴らは、口だけ達者ってホントなんですねえ。自分が言い出した勝負を取り下げるなんて。卑怯者」 むっと唇をかむテオ。 アルファン「おい、ギルベルト」 テオ「お前さあ、魔法科の連中を卑怯呼ばわりするんじゃねーよ!」 ギルベルト「だって先輩がねー」 テオ「俺は卑怯じゃねーし!」」 ギルベルト「逃げるんでしょ?」 テオ「そこまで言われたら、引けねえよ。受けて立ってやる」 リスト、テオの肩をつついて、 リスト「忘れてない? そのドリンク……」 テオ、リストの手を振り払う。 テオ「男に二言はねえ」 ギルベルト「ふっ。その威勢の良さいつまで持ちますか?」 テオ「むきー。ホント生意気な奴! (アルファンに)剣術部は、ギルベルトの教育どうなってんだよ」 アルファン「血の気の多い奴おおくて、手を焼いてる」 ギルベルト「アルファン先輩は安心してくださいね。でもあんたはダメ」 テオ「おい」 ギルベルト「ただの勝負じゃおもしろくありませんね。ルールを追加しましょう」 テオ「ルールだあ?」 ギルベルト「負けたら1週間、パシリになるってどうです?」 テオ「いいぜ。乗ってやるよ」 ギルベルト「何でも言う事聞くんですよ。後から泣かないで下さいね」 テオ「俺は負けねえ。お前がぱしられるんだよ!」 ギルベルトの襟首をつかむ、アルファンの手。 ギルベルト「!?」 アルファン「そこまでだ。いい加減にしろ。他人を貶める指導とはもってのほかだ」 怒りの視線で見下ろすアルファン。 ギルベルト、居心地の悪さに額に汗を浮かべる。 ギルベルト「す、すみません、先輩が喧嘩売られてたのでつい……」 アルファン「もういい」 アルファン、ギルベルトの襟首を離し、部室のキーを投げる。 アルファン「部室に筋トレ用のバーベルが20本ある。倉庫に入れておけ」 ギルベルト、笑顔でカギを握る。 ギルベルト「はい! 先輩の力になれるなんて、俺頑張ります。失礼します」 アルファンに深くお辞儀をして、走り去るギルベルト。 テオとリスト、呆然と見送る。 リスト「騒がしい奴だなあ」 アルファン「テオも」 テオ「ん?」 アルファン「いちいち後輩に乗せられるな」 テオ「悪い、つい」 アルファン「もう行く」 背を向けるアルファン。 テオ「なあ、手伝いは?」 アルファン「あいつにやらせる。またな」 アルファン、立ち去る。 テオ「……自分だけ行っちゃって。なんだよ」 テオ、恨めしそうにアルファンを見送る リスト「一緒にいれると思ったのに……」 テオ「!?」 テオの隣から、にやにやとテオの顔を覗き込むアルファン。 テオ、ギョッと動揺して、のけぞる。 テオ「んなこと思ってねえからな!」 リスト「よかったなあ。ギルベルトと来世の約束かわすことにならなくて!」 テオ「あ。そういえば」 リスト「なー」 テオ、顔面蒼白。 ○7闘技場・競技コート~観客席 競技コート。 胴着を着た剣術部の部員たち、掛け声をかけながら、剣の素振りをしている。アルファン、部員たちの前に立ち、素振りの様子を監督する。 ×  ×  × 観客席。 テオ、薬の入ったペットボトルを手に、練習を眺めている。視線の先にはアルファン。 テオM「差し入れだったらアルファンも飲むだろ。中身は、まあ内緒だけど」 アルファンの声「(号令)もっと気合を入れろ」 部員たち「はい!」 より一層気合が入る、部員たちの掛声。 テオ、手すりに身を預けて、眩しそうにアルファンを見つめる。 テオM「アルファン楽しそうだ。やっぱ、剣が隙なんだな」 その時、練習着姿のギルベルト、同級生数名と『今日もきついなー』などと談笑しつつ、タオルで汗を拭きながら、テオの横を通過する。 ギルベルト、立ち止まり、テオを振り返る。 ギルベルト「またアンタかよ」 テオを睨みつける、ギルベルト。 テオ「げっ、昼見かけたヤツ。そういや……ここ、剣術部か」 ギルベルト、テオの手の中にあるドリンクを見て眉を顰める。 ギルベルト、ペットボトルを握るテオの腕をつかむ。 ギルベルト「あんたほっとけないわ。来いよ」 テオ「っ! 引っ張んなよ」 テオ、痛みに眉を顰める。 ×  ×  × 競技コート。 アルファン、テオが立っていた観客席を見上げる。人の姿は無い。 ○8闘技場・建物裏 テオ、闘技場の壁に、背中を打ち付ける。 テオ「痛ってー!何すんだよ。バカ力」 ギルベルトと数名の同級生、テオを取り囲む。 ギルベルト、魔法薬の入ったペットボトルを手に、嫌悪感に満ちた視線を向ける。 ギルベルト「何企んでんだよ、いちいち先輩に突っかかってくるんじゃねーよ」 テオ「はあ? 見学してただけだろ」 ギルベルト「どうだかなあ?」 同級生「そのジュースなんだよ?」 ギルベルト「魔法科の奴が、先輩に怪しいもん、飲ませようとしてるんだよ」 テオ「!? あ、怪しくなんてねえよ!」 テオ、図星を差され、バツが悪そうに視線を泳がせる。 ギルベルト「どの口が……」 ギルベルト、水筒のふたを開けて、自分の口へと近づける。 テオ「ばか、やめろ……」 テオ、慌ててギルベルトに手を伸ばす。 同級生たち、テオを両側から抑え込む。 ギルベルト、ペットボトルを口から離し、テオに白けた視線を向ける。 ギルベルト「やっぱり」 ギルベルト、水筒を傾けて、中身を地面へと捨てる。 テオ「あ」 地面に落ちていく、魔法薬のドリンク。 ギルベルト「こんな得体のしれない物、飲むわけないでしょ?」 テオ「勝手に捨てんな!」 ギルベルト「お望み通り返してあげますよ」 ギルベルト、ペットボトルを投げつけようと振りかぶる。 アルファンの手、ギルベルトの背後から現れ、振り上げた腕を掴む。 アルファン、怒りの視線でギルベルトを見下ろす。 アルファン「何やってる」 ギルベルト「せ、先輩!」 同級生たち、怯えて一歩後退る。 アルファン、同級生たちに鋭い視線を向け、 アルファン「休憩終わったら、速やかに練習に戻れ。練習時間を無駄に過ごすな!」 同級生たち「は、はい」 同級生たち、闘技場へと走る。 アルファン、鋭い視線でアルファンを見下ろす。 アルファン「お前は説明」 ギルベルト「……っ」 ギルベルト、居心地悪そうに俯く。 アルファン、座り込み、地面を濡らすドリンクの跡に触れる。 アルファン「(ギルベルトに)お前がやったのか?」 ギルベルト「魔法科が昼相手にされなかった腹いせに来たんです。先輩に怪しい飲み物飲ませようと企んでて……!」 テオ「なっ、腹いせってなあ! 怪しくねえし!」 ギルベルト「大体、仕返し以外の何でもないだろ。部活までアルファン先輩のストーカーしやがって」 テオ「ストーカーってな! 俺は、アルファンにドリンク差し入れに……」 ギルベルト「(鼻で笑う)フッ。その、飲んだらヤバイドリンクをか?」 テオ「や、やばくねえよ。アルファン専用のドリンクなの。ほかの奴が飲んだらダメなの!」 ギルベルト「はあ? なんだそれ」」 アルファン「(一喝)お前ら、いい加減にしろよ!」 テオ「……」 ギルベルト「……っ!」 アルファン、テオを振り返って、 アルファン「部活の見学に来るなとは言わない。ただ、規律を乱すのはやめろ。試合前で全員一丸となって練習してるんだ。足を引っ張ることは許さん」 テオ「ごめん……」 アルファン、ギルベルトに厳しい視線を向ける、 アルファン「ギルベルト、他人が持ち物を勝手に破棄するなんて言語道断。武術をたしなむものとしての道徳がなってないぞ」 ギルベルト「ですが先輩、こいつは先輩に……」 アルファン「言い訳する前に反省しろ!」 ギルベルト「……はい。すみませんでした」 ギルベルト、渋々押し黙る。 アルファン「(ギルベルトに)一つ言っておく、テオは、害になるようなものを俺には飲ませないと、確信している」 テオ、ハッと驚いて、アルファンの顔を見つめる。 ギルベルト「なんでそんな事……」 ギルベルト、思わず言い返して、バツが悪そうに押し黙る。 アルファン「俺はテオのことを信頼している」 テオ「……」 テオ、濡れた地面の跡を見つめる。 ○9寮・テオの自室 デスクに座ったテオ、魔法薬の瓶を振る。魔法薬は半分に減っている。 テオ「もうやめた!」 テオ、デスクに瓶を乱暴に置く。 リスト、スナック菓子を片手に、覗き込む リスト「ギブアップすんの? 面白かったのに」 テオ「あのなー」 テオ、むっとしてリストを見上げる。 テオ「いやなんだよ」 アルファン「ん?」 アルファン、スナック菓子を食べる。 テオ「あいつは、俺を信用してるって言ってくれた」 リスト「やばいもんじゃないし、ただのまじないでしょ」 テオ「もういいの! 今アルファンと一緒にいられれば十分だよ。未来なんて心配しても仕方ないし」 リスト「未来?」 リスト、テオに背中に覆いかぶさって、 テオ「なんだよ……」 友「未来の話、もうちょっと詳しく聞かせろよ」 テオ「まじないの効果だよ。リストも知ってるだろ」 ドアをノックする音。 アルファン、入ってくる。 アルファン「失礼する。……っ」 アルファン、テオに後ろから雪崩れかかっているアルファンにギョッとする。 テオ「あ、アルファン」 リスト、アルファンの背に乗っかっままで、 リスト「アルファンじゃん。ヤッホー」 アルファン、テオの服の襟首をつかみ上げる。 リスト「ん?」 ○10寮・廊下 リスト、部屋から放りだされる。 リスト「わっ」 入口を塞いで仁王立ちするアルファン。 アルファン「しばらく借りる」 リストの目の前で閉じる扉。 リスト「しかたないなあ……ん?」 リストが振り向いた先には、通りかかった学生たち。 リスト「あ、いまからゲームするんだろ? 俺も混ぜてよ」 リスト、学生に大きく手を振る。 ○11寮・テオの自室 アルファン、テオに歩み寄る。 テオ、デスクでびくっと身を固くする。 アルファン「相変わらず騒がしい奴だ」 テオ「……」 テオ、頭上で両手を合わせて、謝罪のポーズ。 アルファン、呆気にとられた顔。 テオ「悪かった! アルファンの部活、邪魔する気はなかったんだよ」 アルファン「俺も……昼休みは一緒に過ごす時間だったのにな。悪かった」 テオ「へ? 俺がいつも勝手に会いに行ってるだけだろ」 アルファン「……」 テオ「……」 テオとアルファン、見つめ合う。 テオМ「うわ、恥ずかしいんだけど」 テオ、照れて思わず俯く。 アルファン、デスク上の魔法薬に気づき、手に取る。 アルファン「ドリンクか……」 テオ「ああ。作ったんだけど、もう必要ないから」 アルファン、瓶の中身を一気に煽る。 テオ「え? の、飲むのか!?」 アルファン、空っぽの瓶を見つめて、 アルファン「この味……」 テオ「バッカ! 魔術師が調合した得体のしれないもの一気飲みする奴があるか!」 アルファン「俺に作ってくれたんだろ?」 テオ「! だ、だから。あーー!」 テオ、頭を抱える。 アルファン「……」 テオ「アルファン? どうした?」 テオ、心配そうに、アルファンを覗きこむ。 アルファン、急に胸を抑えてうずくまる。 アルファン「……っ」 テオ「おい、苦しいのか!?」 慌ててアルファンの背中をさする、テオ。 テオ「待ってろよ」 机の中からノートを取り出し、焦ってめくるテオ。 テオ「ただのまじない薬だ。変な材料なんて入ってない。大丈夫だからな!?」 涙目で、机上のノートの文字を追うテオ。ノートには、『来世で恋人と結ばれるまじない薬』の文字。 アルファン、テオの背後で平然と立ち上がる。 アルファン「やっぱりか」 テオの背後からアルファンの手が伸びて来て、ノートを取り上げる、 テオ「お前!」 アルファン「最近女子からの差し入れでよく食べる味だと思ったんだ。まじないの薬だったのか」 テオ「え、大量に飲んでんのかよ!?」 アルファン、ノートを指でなぞる アルファン「自分の考えを相手に伝える薬の一種だと聞いたが」 テオ「恋愛成就の薬!?」 『来世で恋人と結ばれるまじない薬』の文字の文字で指を止めるアルファン。 アルファン「『来世で恋人と結ばれる』?」 テオ「うわあああああ」 テオ、ノートを取り戻そうと、手を伸ばすが、アルファンがひょいと避け届かなない。 テオ「返してくれ!」 テオM「来世とか、重すぎじゃん。こんなの今すぐにでも嫌われるだろ!」 口を手で覆って考え込むアルファン。 テオ、アルファンに深く頭を下げる テオ「ご、ゴメン! 変な薬飲ませて。れ、恋愛成就の薬だったんだな。俺勘違いしてて……」 アルファン「……」 テオ「いや来世なんていつだって感じだよな。ハハハ……」 テオ、気まずそうに視線そらして、苦笑い。 アルファン「来世なんて考える必要ない」 テオ「だよなー」 テオ、肩を落として、暗い表情。が、一瞬でアルファンに笑顔を向ける。 テオ「今一緒にいてくれるだけで十分……(小声)もしかして、もう嫌になっちゃったかもしれないけど……」 アルファン、テオの手を握る。 テオ「っ!」 テオ、ときめいて、アルファンの顔を見上げる。 アルファン、優しげな視線をテオに向けている。 アルファン「この薬が、来世でもテオの元に導いてくれるんだろ? もう心配ない」 テオ、驚いて目を見開く。 テオ「アルファン……うん」 テオ、嬉しそうな笑顔。
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