悲しみの海

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無性に泣きたくなった。 なのにどうしたことか?得体の知れない何かがその感情に蓋を閉めている。 周りは漆黒だ。唯一照らしているのは月の光だけ。 彼女が立つ場所からはきっとわたしの姿は暗くて見えやしないし、聞こえもしない。 それでも、「泣くのは弱い」、「泣いても意味が無い」と、何かがブレーキをかけている。 感性と理性が既に哀歌を無視して対抗していた。 そしてそれがお互いぶつかり合う時、わたしは前者を取ったのだ。 もういいじゃないかと理性に諦めさせるよう説得した。 人間というのは弱い生き物なんだ。 常に何かに委ねて、何かを信じていないと生きていけない。それが果たして本当に意味があるのか、何もかもを信じられない時もある。 泣いても解決しないし、強くもならない。 あの音楽だって、吹き続けても褒める人はいないし、彼女も吹き止むことはない。 しかし、それがそうでも、涙というヤツは、わたしの中の何かを、それは不安であれ、怒りであれ、悔しみや憎しみであれ、それを波のように洗い流してくれる。
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