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嗚呼、なんて辛い夜だ。
まさかこんなにも甚い鎌がわたしの心に降りかかるとは。
どうしてなのだろうか?1円も失ってないのに、まるで倒産でもしたかのような、何もかもを失った絶望感がわたしの心に穴を開けている。
何を思ったのか、他のことを置いてけぼりにして街に出た。ただひたすら闇の中を歩いた。
一体どうしてなのだろうか?帰る家も、食う飯も、寝るベットもあるのに、何処にも自分の行き場はないと海まで彷徨った。
その時だった。
聞いたことの無い笛のような旋律が、波に乗って耳まで流れてきた。
近づいた。誰かが月に向かって吹いている。白い月と黒い海の間に、岩に立っている誰かが居る。
顔も夜の闇に染まって見えないが、ハッキリとしたシルエットだけは月の光に照らされている。
髪は長い、ドレスかスカートかが膝までかかっていた。10代の女性だと咄嗟に思った。
彼女が吹いている。
そこからわたしは彼女に悟られないよう静かに彼女の吹く音楽を聴いた。
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