美しい人

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「伊武さんは、コーヒーがお好きなんですか?」 俺の問いに、彼はコクンと頷いた。 「家で飲めば良い話なんだけど。 家に居ると、早く会社に行かないとって焦ってしまうし。 だったら早めにここへ来て、ギリギリまでゆっくりコーヒーを飲んだ方が、落ち着いて仕事に取り組めるから。 それで毎朝ここへ来てるんです」 「毎朝来られてたんですか」 どうりで俺が来た時、いつもいるわけだ。 「倉木君は7月くらいからここへ来始めたよね?」 「え? あ、はい。そうです」 夜勤明け、お腹が空いたなと思っていたら。 朝早くから開いているこの店を見つけて。 モーニングセットを頼んだのが始まりだった。 「よく見かけるから、自然に顔を覚えてしまって。 勝手に知り合いになった気分になってました」 「え……?」 それって……。 「お、俺もです。 俺も伊武さんの顔を覚えてて。 なんか親近感を感じてました」 この店に来るのは、年配の男性が多いから。 俺と同じくらいの歳の人がいるのが新鮮だったし。 それより何より……。 あなたは本当に綺麗だったから。
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