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それは、彼が同じ会社と知って10日くらい経った頃だった。
夜勤明けだった俺は、いつものようにあのカフェに立ち寄っていた。
ふと、伊武さんがよく座る席に目をやる。
この頃、彼を会社で見かけることはあっても。
ここでは伊武さんに会えていない。
会社で会えても、もちろん嬉しいけど。
やっぱりここで見かけた時の幸福感とは、比べものにならない。
今日も会えないのかなとため息をつきつつ、窓の外を眺めていたら。
ふわっと爽やかな香りが俺の鼻をかすめた。
この香りって、どこかで……。
まさかと思って顔を上げると、そこには。
俺の席の前に立つ伊武さんの姿があった。
あまりに突然のことに焦る俺。
声も出せずにうろたえていたら。
「ご一緒していいですか?」
そう言って伊武さんがにっこりと微笑んだ。
初めて耳にする彼の声。
なんて甘くて優しい声なんだろう。
俺はドキドキし過ぎて、こくんと頷くだけで精一杯だった。
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