13人が本棚に入れています
本棚に追加
第68話/初めての御使い
「えぇか。休憩する時は、見晴らしのえぇとこを選ぶんやで。身を隠せそうなとこは、大体先客がおるさかい。用心するんや」
「はい」
非常食や救急箱を詰め込んだリュックに、暖かい飲み物が入った水筒を託された俺は、普段この世界を飛び回ってるストームにアドバイスをもらって身支度を整えた。
__とは言っても寒さ対策として、Liderから拝借した厚手の白いジャンバーに、念のため航空ゴーグルを借りたぐらいだ。
「ちょっと装備に不安が残るけど、身の危険を感じたら魔法を使うようにね」
「うん」
「手綱はどうするんや?」
「最近思い出した記憶で何とかするよ」
実践は初めてだが、ムグルとの特訓中に思い出した魔法は一通り試してみた。手綱も昔どうしてたのか思い出した事から、鳳炎に協力してもらって予行練習済みである。
見送るウォームとストームに少しでも安心させればと気丈に振る舞い。
「フレム! ウォーム様の施設で会おうね」
「うん、先に行って待ってるよ」
俺を呼び止めたグレイと約束を交わした後、確保された離着陸スペースで鳩程のサイズから馬程のサイズへと変貌した鳳炎の傍に駆け寄って、手短に呪文を唱える。
「我に手綱を授け
汝の盾と矛として我を騎乗させよ
盟約の手綱」
すると自動的に黄金の馬銜や手綱の一式が鳳炎に取り付けられ、その身にあった鞍も出現と同時に備え付けられた。
「盟約の手綱か。さすが守護竜と呼ばれるだけのことはあるんやな」
「無理は禁物だよ!」
「分かってるよ」
感心するストームの横から念を押して忠告するのは、颯爽と鳳炎に跨ぐ俺を心配そうに見つめるウォームだ。勢い任せに軽口を叩いてしまったが、飛び立つ鳳炎の風圧でそれどころではなくなったらしく。上空をぐるりと旋回して、見送ってくれた皆の顔を確認してから裏世界を目指して飛び立った。
(ウォームさん、驚いてましたよ)
(敬語で返すべきだったかな?)
もしくは、素直に頷きでもした方が可愛気があったかもしれない。脳内で我が身を振り返った俺は、少々反省した。
けど見当違いな返答してしまったのか。
俺のテレパシーを受信した鳳炎は、小さく鼻で笑って応える。
(そうかもしれませんね。今頃、懐かしさの余りほころんでいることでしょう)
そこで俺は、昔の口癖に気付いてしまった。思い出した訳ではないので実感は無いにしても、しつこい忠告に思わず言ってしまう言葉は今も変わってないようである。
「昔と変わらないってことか」
(そうですね)
それが良い事なのか分からないけど、飛行する鳳炎の背からの眺めは、絶景通り越して魔界である。雷鳴が遠くの方から響き渡り、太陽がないのに地上の様子が分かるのは、有難いけど不思議なものだ。
最初のコメントを投稿しよう!