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(私達も仕事に戻りましょうか)
(そうだね)
何より盗み聞きしたと、トラブルになっても面倒なだけだ。邪魔しないようテレパシーでやり取りすると、蜜蝋飴をもう1つ鳳炎に譲って、残りを一気に頬張った俺は、思い出したように飲料水をかぶ飲み。
(順調にいけば、後三時間ぐらいだよね?)
(はい)
ーーもうひと踏ん張りだ。
立ち去る前にテーブルの上を綺麗にすると、通信室を後にして手洗いへと向かった。
ぶっちゃけ安全が確保出来ない地で、野性的な行為はしたくない! しっかり身を軽くして後半戦に挑む。
「準備はよろしいですか?」
大型のアナトやアスタルトの姿がない事を確認した鳳炎は、荷物を背負い直した俺が頷き返すのを見届けると、再びドラゴンへと姿を変えて咆哮した。
すると集まり始めていたキチュルが蜘蛛の子のように散って、俺を乗せた鳳炎は難なく離陸を果たす。
「凄い!」
(このぐらい、朝飯前ですよ)
しかし、妙に冷えた風邪が頬に当たる。
此処が地球であれば雨の前兆だ。
(鳳炎、高度を上げて)
まだ雲は薄いようだが、念のためだ。
息苦しく感じるかと思えば、聞いてた通り酸素濃度は変わらないようで。雲の上を出て暫くしてから雷が雲の中でゴロゴロと燻り始めた。
(濡れずに済みましたね)
(だけど施設を通り過ぎたらどうしよう)
雲が厚くなっていくにつれ、肉眼では地上の様子が分からなくなってくる。一応魔石の位置は、何となく把握できるけど……。そんな状況に慣れていない分、不安が募った。
一方鳳炎は、経験から自信があるようで、真っ直ぐ行き先を見据えて否定する。
(そんな事にはなりませんよ)
(その心は?)
(ウォームさんが育てた魔石は、この世界に1つしかありません。直ぐに分かりますよ)
ーーそう言うもんかなぁ?
鳳炎を疑う訳じゃないけど、今一つ自信がないのは、視覚を頼り過ぎてるからかもしれない。ムグルとの特訓中、やたら注意されていた事を思い出す。
(感覚を研ぎ澄ませ、て事か)
(そう言うことです。魔力の流れで炎の魔石がある方角が分かるように、近付けば自ずと分かるものですから、後は慣れですね。先程御主人は、高度を上げるよう私に指示されたのは何故ですか?)
知識からと言うのもあるが、山に囲まれた自然豊かな土地で。春は天気予報が当てにならない程、大気が不安定なことから。降水確率と実際の空模様に加えて、急な風の冷え込みから雨を予想したものだ。
(正直驚いたんですよ。昔の御主人も風を読む事はありましたが、判断が早かったので)
(たまたまだよ)
むしろ俺の常識が、まだ通じる世界で良かった。周囲を警戒しつつ、月夜の明るい空にしては星が瞬く不思議な異世界上空を堪能するのであった。
【初めての御使い/完】
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