第69話/もどかしい瞬間

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(このまま行くと、予定より早く着きそうですね) (そうなの?)  結構な寄り道をした気でいたので、体感的には予定を大幅に遅れていると思っていたのだが……。飛行のブロフェッショナルであるドラゴンの鳳炎がそう言うのだから、そうなのだろう。真下に蠢く雷雲以外、代わり映えのしない風景そろそろ飽きてきた俺は、試しに目印となる魔石の気配を探し始める。 (風の魔石に比べて、結構はっきりと魔石の気配を感じられるかも) (御主人はその名の通り、昔から炎属性との相性が良いからでしょう) (それは俺の偽名のこと?) (はい。不死鳥とも呼ばれる火の鳥は、御主人の象徴でもありますからね) (へ~……。自分の事なのに、全然覚えてないや。むしろ恥ずかしいかも……)  ウォームに教わって、深く考えもせず愛用してるけど……。どうにも中二病臭くてたまらない。それとも俺を知る人物からすると、捻りのないネーミングセンスだったりするのだろうか? 故郷では苗字は言うまい。 (そう言えば魔法の事ばかり覚えてますね) (我が身を考えると有難い事だけどね)  それでもムグルの話によると、半分以上覚えていないらしく。昔生活の中で使っていたとされる魔法も、ムグルの説明だけでは使えない魔法も幾つかあった。  例えば攻撃を防ぐ結界の魔法は使えても、雨粒を防ぐ魔法は使えないので。いくら濡れないよう雨雲の上空を飛行しても、着陸地点が近くなるとそうもいかない。  ーーむしろ退化してるな、自分(オレ)ーー  昔の俺ならどうにかしてたんだろうけど、濡れる覚悟を決めた俺は、手綱を改めてしっかり握りしめる。 (間もなく着陸のため降下いたします。心の準備はよろしいですか?) (おうよ!)  すると鳳炎は、降下するタイミングが分かるよう5秒前のカウントダウンを開始。振り落とされまいと脇をしめ、体勢を低くして足に力を入れると、雨粒でゴーグルの視界が奪われてしまった。  ーー今(ぬぐ)っちゃダメだ!ーー  鳳炎の飛行速度から危機感を覚えた俺は、 雨雲を突き抜け。緩やかに施設上空を旋回を始めた頃合いを見計らって、ゴールドを首に下ろした。 (出迎えが見えませんね) (うん) (吠えてみましょうか)  ーーえ゛っ。  予定より早く着いた事で、呼び出しが必要となってしまったのは分かるけども……。  咄嗟に風魔法で耳を防音した。 (テレパシーで何とか出来なかったの?) (水属性の相手には感度が悪いもので)  ーーあ~、なるほどね。  相性の上で、属性も含まれるようだ。  そう言えば、普段テレパシーで会話しているウォームとストームは、鳳炎と相性が良い属性である。
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