第69話/もどかしい瞬間

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 すると途端に歩きながら暗い影を落としたウォーターは、声量を落として説明に入る。 「実は、改装されたフレムちゃんの部屋に籠ってる状態なんだけど……。容態を確認する術がないのよ」 「どういうことですか?」  それは想定外と言うか。そこまで仲間を遠ざけるとしたら、魔族であるスフォームが部屋に籠ってる状態なんだろうけど……。 「会ってもないの?」 「テレパシーで呼び掛けると、テレパシーで返事があるぐらいよ。だからフレムちゃんが来る事は知ってるけど、顔を出してくれるか分からないわ」  つまり弱った姿を見せてくれるかどうかは、俺の日頃の行いが問われるようだ。 「機嫌悪そうだった?」 「そうでもないわよ。ただピリピリはしてたわね。怒ってるというより、警戒心を研ぎ澄ませてる感じかしら」  それも仲間であるウォーターを部屋に入れない程、警戒心剥き出しのようで__。離れへと通じる渡り通路の手前で立ち止まった彼女は、申し訳なさそうに言う。 「私は此処まで」 「えっ?! 部屋の前に立つ事すら許されてないの?」 「そうなの。だから覗き見る事すら出来ないんだけど、フレムちゃんならきっと大丈夫だから!」  ーー何故?!  そこまでの信頼を得るような親交は、あっても過去という名の昔の事だ。 「あ、あんま期待しないでね」  普段の様子すら分かってないこともあって、既に不穏な魔力を感じられるのが逆に怖いんですけども__。ウォーターは、俺が入室出来る前提で伝言を口にする。 「それと、あの部屋にある物は自由に使って良いそうよ。到着の報告は私がしとくから、ラーリングのこと宜しく頼むわね」 「……スフォームのことはいいの?」  記憶が確かなら、彼女もウォームと同じ。  スフォームを主とする<カードに封印されし者>のはずだけど……。ウォーターは返答に困った様子で「彼は大丈夫よ」と言った。 (……薄情に思いますか?)  渡り通路に続く扉を開けると、ガラスのない窓から吹き込む雨でずぶ濡れだったので。我が身を乾かした魔法と同じ要領で、通り道を乾かしてから歩き出すと、肩に乗っていた鳳炎がテレパシーで尋ねてきた。 (いや、あれが普通なんでしょ?)  俺だって、恐怖を感じない訳じゃない。  ただ相手が魔族だからではなくて、俺より長身の男性だからだけど……。それは記憶が曖昧で、魔族の恐ろしさを余り理解してないからこそなのかもしれない。  遠くからウォーターに見守られながら、肩の力を抜いて2回ノックした後、入室の許可を得ようと室内のスフォームに話しかける。
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