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それから二日が経過し、スフォームが三食欠かさず食事を採ってくれたお陰で、体調不良は改善に向かっているようだ。
人間である俺にとって当たり前の事しかやっていないのだが、魔族であるスフォームは「薬に頼らなくても、ここまで改善するものなのか」と喜んでいるので良しとする。
「言っとくけど、民間療法ばかりに頼っててもいけないんだからね」
「みんかんりょうほう?」
「自然治癒力を高めるために、医師でなくても知ってる昔からの知恵だよ。絶対的な効果があるとは言えない応急措置のようなもん」
「つまり一時的な効果という訳か」
「と言うか。根本的な原因が分かってないから、ぶり返す可能性があるってことだよ。今度倒れたらフェイバーを呼ぶからね」
「分かった」
スフォームが見知らぬ人間を警戒するのは分かるけど、背に腹は変えられない時は来る事だけは知っててほしくて念を押した。
あの記憶が確かなら、いくら魔族であるスフォームの魔力が優秀でも、8人を使役する負担は大きいはずだ。
俺は医師がしそうな処置を事前に教えはしたが、そもそも此処が異世界である事から。最終的に回復魔法が必要になるのではないかと思い、スフォームが昼寝を始めた頃合いを見計らって鳳炎に講義してもらう事にした。
「とは言え、私も得意とは言えないんですよね。むしろ御主人の方が、魔法医療の医師免許をもってるぐらい優秀なんですよ」
「それは、さすがに返還しなきゃだね」
知識不十分の時点で医療事故起こしそうだし、鳳炎に教えてもらう時点で素人同然。人命を預かる度胸なんて微塵もない事から申し出ると、真向かいに座る鳳炎は小さく誤魔化し笑いをして話を進める。
「まぁまず、初歩的な魔力回復から体験してみましょうか」
「体験出来るの?」
「手を繋ぐだけで済みますからね」
そう言って、差し伸べた両手の甲をテーブルの上に置いた人型の鳳炎は、ニッコリと眩い微笑みを俺に投げ掛けてくれたけど……。
まともに男子と手を繋いだことがなった英里の記憶が脳裏を過って躊躇してしまう。
「どうかされましたか?」
「あ、いや。なんでもないよ」
なかなか割り切れない記憶に振り回されながらも、控えめに差し出された手を取ると、鳳炎は「よろしいですか?」と確認をとってから俺の両手をがっちり握った。
ーー何のゲーム・イベントだろう?ーー
女の子のままであれば、イケメンに両手を握られて赤面しても可愛いと思うが……。
現状を冷静に分析すればする程、逆に意識してしまう方が恥ずかしくて仕方がない。
一方鳳炎は、眼を瞑って気を集中させると、黙って様子を見ていた俺に話しかける。
「余り得意ではないのですが……。右手から伝わって、左手から流れていく暖かみを感じられますか?」
「へ?」
ーー雑念ばかりで気が付かなかった。
しかし言われて意識すると、確かに何か暖かいモノが巡回しているのが分かる。
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