第69話/もどかしい瞬間

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「本来車酔いや人息(ひといき)に酔った方にしてあげる治療法です」 「更に酔いが回ることはないの?」 「状況によりますね。昔は炎の民が水の民を治癒することは出来ないと言われていましたが、その水の民が低体温症の場合。逆に効果的と言われているぐらいです。因みに魔力融通による魔力回復は、必ず一方通行にして下さい」  そう言って鳳炎が左手を離した瞬間、じわじわと身体か温かくなってきた。恐らく片手を離した事で、巡回せずに相手の体内に(とど)まる仕組みなのだろう。 「でも手を繋ぐだけで出来る、という訳ではないんだよね?」 「そうですね。体内にダムを作り、それを少しずつ放出するイメージで私はやってます。注意事項としては、相手の器と属性を考えて放出することですね」 「見た目だけで判断すると失敗する、ってことか。……なかなか難しいな」  なんせ目の前にいる鳳炎相手となると、見た目は成人男性。小型ドラゴンにもなれるが、実際はもっと大きな図体のはずだ。  それに属性を考慮するとなると、かなり難易度が上がるのですが……。 (全属性が扱える御主人は、相手の雰囲気や状況に合わせて質量を変えれるはずですよ)  つまり昔の俺は、魔法と同じようにイメージでやってのけていたのだろう。鳳炎のテレパシーによるアドバイスを聞く限りでは、察力と経験を養えとしか言いようがない実力の差を感じた。 (まぁやるだけやってみてもいい?) (構いませんよ)  器が大きいこともあって、余裕の表情を見せる鳳炎。失敗しても、回復魔法だから効果無しで終わるだろうけど……。  ーーなんか、固い?ーー  内側に魔力を貯めて、チョロチョロと放出するイメージを実行していると、途中で何かに塞き止められ感覚にみまわれた。  ーー鱗でもあるのかな?  鳳炎は、ドラゴンな訳だし……。人間とは違う何かが、障害となっている状態なのだろう。全く力が通らないのではなく、ひび割れに水が浸透していくような手応えは感じる。  ーー()いてない訳じゃなさそうだ。  だからと言って、出力を上げても跳ね返される量が増えるだけのような気がした俺は、片手から放出した魔力で鳳炎の身体を包み込むイメージをすると、じわじわと暖める要領で魔力回復を試みた。 「凄い応用力ですね」  鳳炎がその効果を実感して褒めてくれるが、車のガソリン・メーターのようなものがある訳じゃないので程度が分からない。  とりあえず自分自身が熱を帯びてきたところでやめると、鳳炎が嬉しそうに褒める。 「完璧です。初めてとは思えませんね」 「ほんと?」 「即戦力になる出来です。気になるようでしたら体験してみますか? スフォームさん」 「え゛っ」  目の前の事に集中し過ぎて気付かなかったけど、ものの見事にスフォームの安眠を妨害してしまったようだ。さすがに小言でも言われると思ったが、ベッドの上で何やら考え始めるスフォームに鳳炎が続けて話しかける。
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