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「記憶が戻ったのか?」
「多少なりともね」
「では善は急げとまいりましょうか」
スフォームの問いに余り期待させないようゼスチャーするも、席を立った鳳炎は、早速室内に結界を張ってもしもの時に備えた。
「心の準備ぐらいさせてあげたらいいのに」
「私はいつでも構わない」
ーー男前だな。
失敗しても死ぬ事はなくても、無防備の状態になるというに……。ビビってる俺が意気地無しのように思えてくる。
「ラーリングに異常があったら止めてよ?」
「当たり前だ」
「御主人程の対応能力なら平気ですよ」
「そんなハードルあげないでよ、鳳炎」
横になり始めたスフォームを見て席を立った俺は、不安を吐き出すように深呼吸してからベッドに歩み寄った。
「緊張してるのか?」
「勿論」
仰向けになったスフォームが手を差し出しながら尋ねてきたので、肯定した後にその手をとってベッドに腰かけると、冷え性を疑うような指先の冷たさに異常を感じた。
ーー暖めるイメージで良いのだろうか?
早速魔力を流し始めると、スフォームはそれを察してラーリングと交代。黄金に輝いていた髪の毛が白銀色へと変貌し、俺より大きく感じていた手が少し縮んで心許ない。
ーーずっと無理してきたんだろうか?
なかなか体温が上がらず、指先どころか。握ってる手が氷を直前まで握っていたかのような冷えを感じる。
ーー魔力を与えるだけじゃダメだ。
だからと言って、汗をかく程の暑さはラーリングの体力を奪ってしまう。
そこで咄嗟のイメージで発動させた魔法は、光の陣から降り注ぐ穏やかな日向だ。
即効性はないが、じんわりとした温もりがラーリングの身体に伝わって__。
「……ラーリング?」
ふと握り返された気がして声をかけてみると、目を覚ましたラーリングが俺に気が付いて一時停止。__無理もない。
ラーリングからして見れば、寝て起きたら友人(それも同性)が手を握って魔法を使っているのだから。何があったのか、状況把握するまで黙っていようと思ったけど__。
「よかった、無事で」
握っていたラーリングの手から温もりを感じ、安堵から思わず言葉が出てしまった。
すると状況を把握出来たのか、ラーリングが俺の手をぎゅっと握り返して泣き始めた。
「大丈夫、傍にいるよ」
握り返す相手の手が小さく震えている事に気付いて、俺はラーリングが落ち着くまで手を離さず待った。余程怖い思いをしたんだろう。涙を流すラーリングの姿は、不本意にもヒロインのようにか弱く見え、スフォーム達が過保護になるのも分かる気がした。
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