第70話/意図せぬ矢合わせ

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(フレム。そう言うもんは、まず上司であるワイにやな) (お叱りは後で受けるよ)  言いたいことは分かってるし、おとがめがない方が可笑しい事を仕出かしているので、言い訳はしないつもりだけど……。 [お待たせ。確かにその人は、WTPOの一員で。この世界に滞在しているよ]  戻ってきたムグルに、そんな事情を知られる訳にもいかないことから、ピシャッとテレパシーで黙らせてから返答する。 「それじゃあ俺の代わりに、ムグルが話しを聞いて来てくれないかな? 約束した訳じゃないんだけど、なんか気になるんだよね」  まだ嫌な予感と言う程胸騒ぎはしないにしても、俺が名刺を裏返して一言メッセージを見せると、穏やかな雰囲気を保っていたムグルの表情が固くなった。 [__分かった。君の名を出して、ボクが代わりに聞いて来くるよ] 「有難う。俺はもう施設で働く側の人間だから、どうしようかと思った」 [だよね。ちょっとストームさんと話したい事があるから、席を外してくれないかな?] 「分かった。龍碑、竜祈、行こう」  上手くいくかどう分からないけど、余計な事は言わずに通信室から出た俺は、厚い雷雲が見渡せる通路で待機。けど5分も経たない内にストームが出てきたので、俺から確認のためストレートに尋ねてみる。 「恩売れた?」  すると俺の頭を鷲づかみしたストームは、「二度はないで?」と言ってわしゃわしゃとご機嫌な様子で頭を撫でてくれた。 「分かってるよ」 「ほんま肝が潰れたわ」 「潰れた?」 「ビックリしたっちゅう意味や。まさかそんな隠し玉を持っとるとは思わんかったで」  物の例えをオウム返しすると、肩の荷を下ろすように息を吐いたストームは、ご丁寧に意味を教えてくれから感想を述べた。  そして俺は、再びズボンのポケットから名刺を取り出すと、暫く眺めた後にストームの目の前で燃やした。 「えぇんか? 物的証拠無くしてもうて」  これもまた怒られる行為を目の前でやってのけたのだが……。ストームは、ちょっと驚いたぐらいで俺に質問する。  ーー俺を試してるのか?ーー  それとも黙って控える二頭の守護獣のお陰なのか。臆することなく俺は言葉を返す。 「恩を仇で返す人は、例え警察でも信用しない方が身のためだよ」 「それもそうやな」  尤も燃やした理由として、誰かに悪用されないようにするためでもあるんだけど……。  WPに恩を売ったことでご機嫌のストームは、顔色を伺う俺を気にも止めない様子で共に本棟へと戻った。
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