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「黒雲を一掃された?」
風の魔石を窓越しに眺めていた紳士な印象を窺わせる中年男性は、ワイングラス片手に部下の報告に顔色をしかめた。いくらウォームの影響で汚れが少ないとは言え、裏世界の事情を知ってる男は、容易く汚せると考えていただけに予想外の展開に思考を巡らせる。
「赤炎の塔には、フレム=ウイングがいたな」
そもそも契約を交わしているスフォームは、体調を崩して引きこもっているため。物事の決断は、幹部に委ねられているはずだ。
しかし、スフォームの体調不良によって幹部が軒並み魔法制限を受けており、救世主の出現により空路が閉ざされても三日間打つ手が無いままであったのなら、現状をひっくり返せる人物は絞られる。
「殺りますか?」
「いや、私が出向こう」
今までの経緯を踏まえると、まき込まれた上に周囲が困っていたから手を貸した。というところであろう。
それならまだ利用価値があると考えた男は、面白い玩具を見つけた子供のような笑みを溢して言う。
「偶然とは言え、我々の計画を着実に妨害しつつあるのは彼の一手だ」
組織の規模と可能性からして、異世界からやって来た警察組織が脅威になると思っていたのだが__。一年足らずで張り合いのない存在となってしまい、物足りなさを感じていたところに彼がやってきたのだ。
「暇潰しにちょうど良い」
男は、グラスに残っていたワインを飲み干すと、魔法の余波で晴れてきた夜空を見上げて目を細めた。
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【完/意図せぬ矢合わせ】
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