第71話/月の出

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大雑把(おおざっぱ)な説明でも構いませんか?」 「勿論です。属性は、事前に告知された風で間違いないでしょうか?」 「はい、でも爆風で雲を吹っ飛ばした感じなので。殺傷能力がないとは言え、生身の人間が食らうと命を落とす危険がある以上、現場にWP(ワッポ)がいたら何かしら言われてたかもしれません。俺の力だけでは不十分だったので、魔石の力も借りましたから」 「そうですか」  すると相手は、少し考えてからメモを取った後に、手帳に挟んでいた物を俺に差し出して礼を言う。 「有難うございました。魔法のことを尋ねると、言葉を慎む方が多いので助かります」 「いえ、俺も考えがあっての事なので」  好感度が上がるのは嬉しい事だけど、舐められてもいけないと思い。俺は差し出された物を受け取った後、これ以上は無理とばかりに「それでは」と軽く会釈(えしゃく)して足早にその場から立ち去った。  ーー悪い人ではなさそうだけどな。  眼鏡を部屋に置いてきたので、受け取った物を見ても何と書かれているか分からないけれど名刺にしては頑丈な作りで。ひとまず上着の内ポケットにしまうと、留守を任せた鳳炎とラーリングが待つ部屋へと向かった。 「たっだいまぁ。ゴメン。物流のことがあって、お菓子のことは言い出せなかったよ」  俺は軽く二度ノックした後、楽しみにしていたら悪いと思いながらも素直に報告。すると、今まで姿が見えなかったグレイがベッドに腰かけ、半身を起こしたラーリングと親しげに雑談してたもんだから疑問に思う。  ーーえ~っと……。     そんなに仲良かったっけ?ーー  面識は俺の見舞いの時にあるにしても、随分親しげに見えたので、説明を求めるようにお茶の準備をしていた鳳炎に視線を送る。 「お帰りなさいませ、御主人。グレイさんは入れ違いで来られたんですよ」 「そうなんだ。暫く顔を見なかったから、どうしてるのかと思ってたよ」  けど俺より相手の方が心配してくれていたようで、腰を上げて歩み寄って来たグレイの表情は怒りに満ち溢れていた。 「それは此方(コッチ)の台詞だよ! 着いた矢先に幽閉されたような話を聞くし、怒られ覚悟で部屋に立ち寄ってみたら、救世主(メシア)を追っ払うために屋上に行ったって聞いて、どんなに心配した事か!」 「ごめん、ごめん。さすがに反撃されたらどうしようかと思ったけど、潮吹レベルで事なきを得たよ」 「しおふき?」  当たり前のように言ってしまったが、この世界にはない言葉だったようだ。それにゼスチャーしようにも、この世界で潮を吹く生物がいるかどうかも知らない俺は、机にあったメモ用紙に背鰭(せびれ)のない(はち)の字のような形の魚を描くと、背の中央に潮を連想させる枝分かれを付け足して答える。
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